第21話
ジャンガーキャット相手にウルハちゃんは完全に優位に立っていた。
レイピアを武器にしているせいで遠距離攻撃はできない。
それでも有り余る飛行能力を活かした攻撃で、ジャンガーキャットを着実に削る。
「凄い」
私はただ茫然とウルハちゃんの雄姿を見届けていた。
きっとこれなら私の出番はない。そう思っても不思議じゃなかった。
純白の翼をはためかせ、適宜近付きながらジャンガーキャットにレイピアを突き刺す。
「そらそらそらぁ!」
「ンニャーゴ!」
レイピアを間接に突き刺す。痛みが走り、全身が震え出した。
けれどウルハちゃんは容赦しない。
もう負ける気はないとばかりに攻め立てる。
:ウルハさん生き生きしてる!
:いっけぇ!
:ジャンガーキャットがなんにもできない
:やっぱ空飛ぶって強いなwww
:可哀そうに思える
;行け行け、もっとやれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
etc……
コメントのボルテージも最高潮に達しようとしていた。
もしかするとダンジョンの放つ特別な魔力に当てられたのかもしれない。
私は冷汗を仮面の中で流していた。
なんだか嫌な予感がする。そう思った瞬間、ここまで黙って攻撃を喰らって来たジャンガーキャットが反撃を見せる。
「ンニャーゴ!」
ジャンガーキャットは痛めた脚を庇いながら身を屈めた。
それから何をするのかと思えば、思いっきりジャンプする。
「嘘だ!」
まさかこんなことになるなんて。反応が一瞬遅れる。
私は駆けだそうとしたが、ジャンガーキャットの鋭い爪がウルハちゃんを襲う。
「キャッ!」
ウルハちゃんは避けようとした。だけどダメだった。
いくらダンジョンで身体能力は強化され、飛行能力を持っているとは言っても、私達は元を辿らなくてもただの人間。
人間の範疇以外で無茶はできない。
異世界人じゃないのだから仕方のないことだが、ここまでのジャンプ力はお互いに想定の範囲外だった。
「くっ! い、痛い……」
ウルハちゃんは引っ掻かれてしまった。
ダメージを受けると背中の純白の翼が小さくなる。
ダメージのせいで痛みが走り、繊細な飛行ができなくなったのだ。
私は危ないと感じた。ピリピリとナイフの切っ先が突き刺すような冷たい感覚が肌を貫く。
もしもこのまま二撃目があったと考えただけで胸がバクバク唸る。
ダンジョンのおかげで強化された豆腐メンタルが砕けそうになっていた。
「はぁはぁ」と思考が巡らなくなり、焦りが見えだすが、それでも体は正直で私は豆腐メンタルのままだけど、頑張ってやることをする。
「い、い、今の私がやるべきことは……そうだ!」
私はウルハちゃんを迷わず助けようとした。
キャッチすればきっとなんとかなる。
そう思ったのも束の間。ウルハちゃんが口パクで何か叫んでいた。
「えっ?」
一瞬なんだろうと考えた。
だけどウルハちゃんの考えを読む。口パクの母音の形。なんとなくだけで、私のことを励ましてくれていた。
もちろん確かじゃない。声は届かない。そうだ。まだウルハちゃんの翼は完全には消えていない。
「そっか。ウルハちゃんは私のこと……そりゃぁ!」
何となく分かった。それなら私のすることは決まっている。
それもそのはず、今のところカメラドローンもコメントを打つ視聴者達も、それからジャンガーキャット自身も気が付いていない。
見えているのは私とウルハちゃんだけ。二人だけで情報を見えないように共有すると、刀=時知丸を抜き、ジャンガーキャットの傷付いた脚に深々と刺し込んだ。
「グニャァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
ジャンガーキャットは痛烈な痛みに大発狂を上げた。
目から大粒の涙を零しながら、突然の痛みの原因を探る。
そこに居たのは私で、ジャンガーキャットは「いつの間に……よくもやったな!」とウルハちゃんから目を逸らし、私のことを噛み食らおうとする。
「今だよ、ウルハ!」
「ありがと、アスム。届け、そりゃぁ!」
ウルハちゃんは落っこちながらレイピアを投げつけた。
すると手から離れたレイピアがジャンガーキャットの目に向かって飛んで行く。
しかし命中はしない。だけど微かに瞼を閉じさせることは成功した。
「ニャッ!」
ジャンガーキャットは膝を折った。
段差が小さく生まれると、私は刀を握ったまま段差を利用してジャンプした。
両手に持ち替え、首を狙って刀を素早く振り下ろした。
「そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ジャンガーキャットの首筋に冷たい刀の刃が触れた。
するとゴトンと頭が落ちた。
ジャンガーキャットはピクリとも動かなくなり、先程までの暴れ具合が一瞬にして静寂に変わった。完全に動かなくなってしまい、その生涯を終えてしまった。
:な、なにが起きた?
:What?
:つ、強すぎwww
:一瞬じゃん
:もしかしてここまで計算して……怖っ、と言うか凄い
:これがダンジョン……ヤベェ
etc……
コメントもしんみりしていた。
今の一瞬で何が起きたのか分かっていない。
湧き上がっていた歓声が静けさに変わってしまう中、私は走っていた。
「ウルハ!」
「アスム……うわぁ!」
「お、重い……」
ウルハちゃんを私はキャッチした。上手く真下に回れたおかげだ。
だけど両腕にとんでもない痛みが走る。重くて仕方なく、不意に正直な感想が出た。
しかしウルハちゃんはムッとした顔をする。当然怒っていた。
「もう、女の子に重いは無いでしょ!」
「ご、ごめんなさい……」
私は素早く謝った。
怒られて豆腐メンタルが崩れた。
仮面の内側で涙を薄っすら浮かべそうになる中、ウルハちゃんは耳打ちした。
「でも、助けてくれてありがとう。お姫様抱っこ、初めてされちゃった」
「茶、茶化さないで。ううっ、本当にや、やめてよ。うはぁー」
私は顔を真っ赤にした。
ウルハちゃんの吐息が耳に触れ、全身が熱くなる。
しばしの間ウルハちゃんを抱きかかえたまま、私は動けなくなってしまった。
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