第16話

 私はモジモジしながらもウルハちゃんに腕を引っ張られて、側に寄っていた。

 緊張する。これじゃあポテンシャルを発揮できない。

 きっと期待値を超えられなくて嫌われるんだ。

 そう思って仕方なく、胸がざわつく。


「それじゃあ今回はアスムと一緒にダンジョンに潜って行くよ!」

「う、うん。ウルハちゃ……」

「しっ、アスム」


 唇の前で人差し指を立てた。

 ちゃんと言おうとした瞬間、私の言葉を阻んだ。もしかして何か気に触っちゃった?

 私は怖くなり、豆腐メンタルがプルンプルン震え出す。


「な、なに?」

「アスム。今の私はウルハ。・だよ!」

「う、ウルハ?」

「そうそう。それでいいんだよ。ってなわけで、改めて行ってみよう!」

「お、おー!」


 配信のあれが全然分からない。

 私はしどろもどろでたじたじになってしまうが、とりあえずウルハちゃんのテンションに頑張って合わせに行く。

 だけど開幕でテンションの差を感じた。

 ポジディブなウルハちゃんとネガティブな私。完全に凸凹な関係で、上手くできるかちょっぴり不安がよぎっていた。




 私とウルハちゃんは立見原草原に足を踏み入れる。

 ここは私も来たことがある。

 草原と言うこともあり、とにかく芝が広い。

 そしてモンスターも比較的おとなしく、怖いモンスターは少ない。だから初心者さんには打ってつけの場所だと、私は思っている。


「ウルハ。今日はなにをするの?」

「うーん、予定は決まってないよ」

「決まってないの? 意外だね」

「えへへ。そうかな?」


 私はウルハちゃんなら段取りも全部決めていると思っていた。

 だけど何も決めていなかったらしく、訊いて驚いてしまった。

 しかし立見原草原は広い草原。予定は決まってなくても、出てくるモンスターは基本的には固定だった。


「アスムはこのダンジョン来たことあるの?」

「もちろんあるよ」

「それじゃあどんなモンスターが出るのかな?」

「うーん。例えば……」

「待って!」


 ウルハちゃんは私が答えようとすると、口止めをわざわざ始めた。

 何でだろう。そう思うと、コメントに問題を出していた。


「みんな〜、このダンジョンってどんなモンスターが出ると思う?」


 視聴者も取り込んでのクイズ大会。

 ウルハちゃんはその場で企画を考えて突発的に始める。

 視聴者達もノリが良く、ウルハちゃんの質問に答える。



:草原って、ぶっちゃけなにがいるんだろ?

:この前犬だから、猫とか?

:コウモリとかRPGっぽい

:野菜が行進してるらしい

:地面自体がモンスター的な?

:やっぱスライムでしょ!

etc……



「うーん。みんな色々ありがとう。それでアスム、答えはなに?」

「えっと、答えは……あれかな」


 私は指をさした。

 丁度答えになるモンスターが出てきてくれた。

 草原の草の上に青いゼリーが一つ。私の豆腐メンタルと似て非なるものがあり、何だか親近感が湧いてしまった。


「うわぁ、本物のスライムだ!」


 ウルハちゃんは目をキラキラさせていた。

 まるで子供のようで可愛い。

 私は何度か見かけたことがあるから、特に真新しさはない。だけどウルハちゃんに合わせて相槌を打つ。


「そうだね。本物だね」

「それじゃあ早速倒してみよう!」


 ウルハちゃんはそう言うと飛び出して行った。

 能力も一切使っていない。

 腰に携えた羽の付いたレイピアを抜くと、駆け出した瞬発力を乗せて突き出す。



 一閃ーー



 プルプル弾んでいたスライムを貫く。

 すると黒い豆みたいな目を×付けて、バタンキューした。

 スライムら体ごと弾け飛び、見ると無惨な姿に変貌する。


 コロン!


 するとスライムの亡骸の中から、何か転がり落ちる。とっても小さな魔石だ。

 ウルハちゃんは嬉しそうに拾い上げると、手のひらの上に大事に置く。


「やった、やったよ、アスム!」

「うん。良かったね、ウルハ」


 ウルハちゃんはにんまり笑顔だった。

 コメント欄も大いに盛り上がる。

 やっぱりウルハちゃんは人気者。私にはそう見えるだけでなく、それだけ頑張っているんだと、ひたすらに感じた。

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