第14話
私は必要なものをまとめた。
そのためには鞄が必要だけど嵩張る。
「こんな時にこの鞄は便利だよね」
そんな時、ダンジョンでも使えるかなり容量の多い鞄を私は持っていた。形状は完全にウエストポーチで、これは前にお母さんに貰ったもの。昔お母さんが使っていたもので、お古だけどかなり便秘なものらしい。実際、本当に便利だった。
「おおっ、たくさん入る。……ん?」
中からいつ入れたか分からない飴玉が出てきた。
袋が開いている。にもかかわらず飴玉は割れてすらいない。これがこの鞄の凄いところ、名前も異次元
「舐めれるのかな?」
私は飴玉を舐めた。
普通に美味しいストロベリー味。
良いものの手に入ったと、嬉しい笑みを浮かべる私は、まるで遠足気分でいつも以上に念入りな準備を施した。
「明日の放課後……ううっ、緊張する」
体が身震いした。
今からならまだ仮病で休めるかもしれない。
だけど後でバレた時に百パーセント嫌われる。
それは避けないとダメだ。私は胸を押さえ付け、一瞬心臓が止まったかと錯覚する。
「危なかった。ふぅ、はぁ、すぅ、ふぅ、はぁ、すぅ、ふぅ、はぁ、すはぁ? あれ、呼吸ってどうするんだっけ……」
とんでもないパニックだった。
だけどいざ我に帰れば頭が真っ白。
もう何にも考えられないと、私は頭を振りかぶりながら、全部一度綺麗にした。
私と麗翼ちゃんは学校が終わると、ダンジョンに直行した。
立見原高校からは歩いて二十分。案外近い場所にあるのが、今回のダンジョンだ。
「麗翼ちゃん、どうしてここなの?」
私は麗翼ちゃんに尋ねる。
今回やって来たダンジョンは比較的安全。
冒険感は薄いともっぱら評判? かは知らないけど、麗翼ちゃんみたいな超人気配信者にはウケない場所になる。
「うーん、ここなら私の能力が活かせるからかな?」
能力。それはダンジョン探索者にとっては夢の力だ。
そもそもダンジョンで最低限の安全を確保するためには、生身ではダメ。ちゃんと指定された薬を服用して、それに耐えられる細胞か判断されて、全身をダンジョンで生きられるように進化させないといけない。
つまりは適応というもので、その中でも能力に目覚めることができれば、戦術の幅も広がり、もっと高みに行けるのだ。
なんて、私は思ったないけど、能力がある方がちょっとでも生きられると思えば、やっぱり欲しいは欲しかった。
だから能力が手に入った時は嬉しかった。
でも戦いにはあまり向かないから、私は上手く使えているか分からない。
「能力が活かせるって、この草原で?」
「うん。私の能力は私らしいから」
にこやかに微笑む麗翼ちゃん。
私は不思議と瞬きをしなくなる。
今回やって来たこのダンジョン。名前は立見原草原。何の面白みもないベタな名前だけど、何処までも澄んだ翠の草が生え揃っていて、風が頬撫で心地良い。
「それよりごめんね、すむちゃん」
「な、なに?」
「カメラドローン。私の持ってたの、この間壊れちゃって」
「う、ううん。そんな、こと、ないよ。それに、あれは仕方ないから」
麗翼ちゃんに本気で謝られると心が痛む。
それにこの間モンスターに襲われた時はそれどころじゃなかった。
カメラドローンが身代わりになってくれたと思えば、随分安いものだと言える。
どんなに高い機械よりも人間の命の方が大事なのは当たり前のことだ。
「それに、私の待ってるカメラドローンはかなり古いから」
「古い? それってこの間のだよね? ちょっと見せて!」
「は、はい」
ウエストポーチの中からカメラドローンを取り出した。
すると麗翼は驚いて目を見開く。
「今のなに!」
「えっ、これは異次元鞄だけど……」
「そんなのあるの! 流石はダンジョン探索者。凄すぎるよー」
「ううっ。私なんかより、麗翼ちゃんの方が凄いから……」
私は謙遜に謙遜を重ねた。
それから取り出したカメラドローンを見せる。
確かに少し旧型で、改造が施されているのか、一応4Kは行けた。
「えーっと、私は機材にあまり拘らないから分からないけど、ちょっとデザインが古いね」
「うん。シャープじゃないのかな?」
「ちょっとゴツいかも。でもその分丈夫で、ダンジョンだと使い勝手が良さそうだよね!」
麗翼ちゃんは私をフォローしてくれた。
とにかく傷付けないように丁寧に振る舞う。
私にはそんな真似上手くできなくて、とにかくカッコよかった。
「それじゃあそろそろ配信も始めよっか」
「あっ、待って、麗翼ちゃん!」
私は麗翼ちゃんを追いかけた。
立見原草原に踏み入ろうとした瞬間、ふと麗翼ちゃんは立ち止まる。
背中に鼻先が当たった。痛い。赤くなる鼻を抑えると、クルンと振り返って麗翼ちゃんは答えた。
「それじゃあすむちゃん。今日は私のチャンネルに出てもらうからね」
「えっ?」
「覚悟しておいてよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。えっ、配信するんたよね。しかも麗翼ちゃんのチャンネルで?」
「そうだよ。それじゃあアバターチェーンジ!」
「待ってよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
私は大絶叫をあげていた。
だけどもう遅い。ここに来た時点で、蟻地獄の巣に落ちていたからだ。
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