第13話
お姉ちゃんからの突然のメッセージラッシュを喰らい、心身共に朦朧としていた。
それでもお腹が空いたのは変わらない。
私はお腹を抑えながら、鍋に水を入れIHコンロの火を掛ける。
「えーっと、確かこの辺にコンソメが……あっ、あった!」
棚の中からコンソメブロックを見つけた。
箱の中を開けてみると、まだ入っている。
一つ取り出すと鍋の中に入れ、簡単に味を付けた。
「後は卵と……あっ、ベーコンもある!」
ちょっぴり嬉しくなる。
私は卵とベーコンを取り出すと、卵を割ってサッと溶き、ベーコンは薄めに火が通りやすいように切っておく。
「これでよし」
私は溶いた卵をゆっくり鍋に注ぎ満遍なく広げる。
それからベーコンもパラパラと投入した。
これだけでかなり見栄えがいい。
「後は調味料を少々……」
再度棚を探してゴソゴソする。取り出した二つのプラッチックの筒。手に取って蓋を開けると、サラサラと鍋の中に振り掛ける。
塩胡椒で味を軽く整える。
後は待つだけ。私はボーッと時間が経つのを待っていると、急にスマホが震えた。
「うわぁ!」
あまりに突然だったからか私は驚く。
だけどまたお姉ちゃんからかも。そう思うと少しだけ心が安寧に飛び込む。
「まだなにかあるのかな?」
スマホを手に取りディスプレイを見る。
お姉ちゃんの名前があるかと思ったが、全然違った。むしろ意外だった。
「えっ、待ってよ! な、な、な、なんで……麗翼ちゃんが」
もちろん理由は分かっていた。
IDを交換したからだ。
しかし一体なんで? と思いメッセージを見てみると、如何やらダンジョンの誘いだった。
麗:すむちゃん、ダンジョン行こう!
あまりにも直球すぎた。
私は目を見開くと瞬きをすることすら忘れてしまう。
思考だけでなく、体も完全停止。フリーズしてしまうと、スマホをついつい落としそうになった。
「危なっ!」
何とか意識を保ちスマホを救う。
ホッと一息付くものの、突然のメッセージに動揺した。まさか家族以外から来るなんて、夢でも見ているみたいだ。
「え、えっと、なにか返さないと……えっと、その」
進:ダンジョンに行くの?
進:あんな怖い思いをしたのに?
私はメッセージを続けて送った。
するとすぐさま麗翼ちゃんからメッセージが返る。
麗:もちろんだよ!
麗:せっかくダンジョン探索者になったからには行かないと勿体無いでしょ?
麗:ダメかな?
そう言われると困ってしまう。
私は深く考え込んだ。だけどこうしている間に時間が経って変に気を遣わせちゃう。そんな気がしてしまい、私はストレートに伝えた。
進:私は止めた方がいいと思うよ
麗:どうして?
進:ダンジョンは怖いところだよ
進:一歩間違えたら、たとえ薬を服用しているとはいえ死んじゃうんだよ
麗:それはそうだけど……
麗:でも、私は行きたいんだ。すむちゃんと一緒に
私は固まった。完全に私を信用してくれていた。如何して? 一回助けただけなのに。
だけどそんなことを聞く勇気はない。きっと野暮な話題だ。
困った私はグッと唇を噛み締め、麗翼ちゃんにメッセージを送る。
進:本当に私でいいの?
そう送るとすぐさまメッセージが返る。
今度はハートマークが付いていた。
きっと味気ないからだ。
麗:もちろんだよ♡
こう返されたからにはちゃんとエスコート? しないとダメかも。私は自分に自信がなかった。豆腐メンタルがボロボロ崩れ始めるが、無理矢理にがりを入れて固め直す。
「よ、よし。頑張ろう。えいえいおー!」
一人でバカみたいなことをした。
誰も見たなくても恥ずかしい。
私は顔が真っ赤になり、頭の中は沸騰していた。
「あっ、でもでも、どうしたら……」
ここで我に帰った私は慌てふためく。
一体全体如何したら。
私はこれまで一人でやってきた。だから二人で如何したらいいのか分からない。
「えっと、そ、そうだ!」
私は蔵に向かった。
こういう時は考えないで体を動かす。
その方が分からないことへの突破口もきっと見える。何て、バカな受け売りをチラつかせる。
「ポータルを踏んで、適当な場所に……えいっ!」
私はポータルを踏んだ。
ダンジョンに一瞬でやって来る。
全身を包み込む不思議で温かな光から解放されると、姿も変わっていた。
コートを前で閉じ、動きやすさと安全性を組み合わせたパンツ&ブーツ。
それから顔には仮面を着用し、腰の刀に触れた。
「よし、行こう!」
そこから私は冷静さを取り戻す。
今の私は進夢であってアスムでもある。
明日に備え、まずは体作りから始める。
とはいえこれをして、精神力が豆腐から成長しているとは、イマイチ思わないのだけど、私はそんな分かり切ったことを今更考える脳は残っていなかった。
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