第12話
私は家に帰って来るや否や、即座に自分の部屋に戻った。
鞄代わりのリュックを放り投げ、枕に顔を埋める。
それから発狂してしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
嬉し発狂が枕越しにも耳に聴こえた。
とんでもないことになった。まさかあの瀬戸内さん……麗翼ちゃんと話しちゃった。しかもIDまで交換しちゃった。こんなことがあっていいのかと、自問自答して頭の中がグルグルする。
「うがぁぁぁぁぁ……な、なんで、どうして、なにが起きてこんなことになるの! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
私は枕に向かって叫び続ける。
しかしこんなことになった原因がまさかダンジョンとは信じたくない。
嬉しい。もちろん嬉しい。何の接点もなかった麗翼ちゃんと話せただけで満足。だけど同時に緊張が激しく起こり、豆腐製の牙城がぶっ壊れる音がした。
「私の孤独なぼっちロードに麗翼ちゃんが……迷惑だよね、きっと迷惑だよ。ああ、ここから消えたい。いなくなりたい。なんで、どうして、あそこで助けたのが私なの? まあ、それはいいけど……どうして憶えてるの。もう、はぁ、うーん。はぁ……」
溜息に次ぐ溜息が漏れ出す。
心が痛い。心拍数が激しく上がる。
だけどもう諦めたらいいと、心の奥の境地で声がかけられた。どのみちもうお終いだ。
「叫んだら、お腹空いちゃった」
私は叫び疲れた。喉が死にそうだ。
枕から顔を上げ、涙目になった目元を拭き取る。
指先が涙を掬い上げる。体が熱って仕方なく、まるで茹で上げられたとうもろこしに感じた。あっ、ここは湯豆腐の方がそれっぽかったかも、などと無駄口を叩く暇はない。
「なにか食べよう」
そう思ってベッドから降りようとする。
するとスマホがチラリと気になる。
見ればディスプレイにメッセージが届いていた。
急いで開いてみると、それは私のお姉ちゃんからだった。
停:この間の配信観たよ! 登録者千人おめでとう
何を言ってるんだろう。
私は実の姉である
だけどなにも返さないのは悪い。
急いでスマホをポチポチすると、返信を返した。
進:お姉ちゃんどうしたの?
私はとりあえず訳が分からないから尋ね返す。
すると高速でメッセージが返って来た。
あまりの速さにドン引きする。
停:なに言ってるのw
停:進夢がやってるチャンネルのこと
進:チャンネル?
チャンネルと言えば昨日から見ていない。
あれから配信を即座に切り、それ以降μTuebのチャンネルスタジオにログインしていなかった。
どんなコメントが来てるかは見られない。
だけど視聴率は気になる。きっと即座にブラバされてるはずだと思っていた。
それなのに、何故がお姉ちゃんは反応が異なっていた。
「どういうこと?」
私はスマホをポチポチ押して、自分のチャンネルを開いてみた。
すると目を見開き驚愕する。
なにが起きているのか。これは夢なのでは? そう思っても不思議じゃなかった。
「と、と、と、登録者数が伸びてる!? 嘘だよね、登録者数二千人……」
言葉を失ってしまった。
私は空いた口が塞がらない。
何が如何してそんなマジックが起こったのか。
私は瞬きすらできないまま、目が乾き始めてようやく我に返った。
「あっ、ああ! 危なかったよ。でも、一体全体なんで?」
私は首を捻った。捻るしかできなかった。
とんでもないことが起きている。それだけは分かる。
しかし何故登録者が伸びたのか。分析をかける必要が出た。そこで私は視聴率を見ながら考えると、そのタイミングが丁度麗翼ちゃんを助けた時と重なった。
「ま、まさか……そんなことがあるの?」
私は固まってしまった。
だけど考える時間も惚ける時間もない。
お姉ちゃんからメッセージのラッシュが続く。
停:どう、見た?
停:見たよね? 凄いよね!
停:本当にお疲れさま
停:まさか千人を超えるなんてね
停:これで収益化も十分だよ!
停:おめでとう。お母さんにも報告しとかないとね
停:やっぱり自慢の妹だよ!
停:しかもカッコいい
停:いやぁ、モテちゃうなー
停:あはは。これで自信に繋がるね!
停:目指せダンジョンマスター
停:行け、豆腐メンタルブレイカー
停:なんてね
スクロールしてもしてもお姉ちゃんのメッセージばかりが続く。
そんな私は完全に放心状態。
浮かれ気味になるなんてあり得ない。
「でも目標は一つクリア……かも」
正直メンタルは全くと言っていいほど成長無し。それは自分でも改めて考えなくても分かってた。
でも今回の配信で、たくさんの人に私のことが知られた。
ああ、恥ずかしい。辛い。苦しい。達成したのに、如何してこんなに体が熱いの。
私は自分の気持ちに整理がつかない。
だけど絶えず登録者は増えるちゃんねる。
これがバズ。いわゆる大バズりってやつなんだと、自分じゃ到底できるはずがない事象に苦しまされてしまうのだった。
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