第8話

 戦わざるを得なくなった。

 私は慣れない刀を手にし、目の前に突然現れた三つ目大蛇を迎え撃つ。

 だけど、全然自信が湧いて来ない。

 だって私は戦えるような性格じゃないからだ。


「ど、どうしたらいいの。とりあえず、抜けばいいの?」


 刀に自問自答して語りかける。

 とりあえず鞘から抜いてみよう。

 そう思って指を掛けると、刀は鞘から何の力もかからずに抜けた。おまけに手に馴染んで、思った以上に重たくなかった。

 もしかして鞘が重たかったのかな?

 私はそう思い、違和感を感じた。


「この刀、もしかして私に合わせてくれてるの?」


 なんて馬鹿な私は頭お花畑だった。

 そんなファンタジーなことがあるはずない。と言いたいけれど、目の前にはファンタジーの中にしかいないモンスターがいる。

 だからこれは信じるしかない。

 私は素直にそう思い、刀を握り締めるととりあえず一呼吸入れる。


「ふぅ。ここで戦わないと死ぬ。それだけは確か。思い出して、お父さんもお母さんお姉ちゃんもみんなダンジョンに行ってる。まだ薬は打ってないけど、私でも少しくらいは……少しくらいは、負けないぞ!」


 私は刀を構えると、三つ目大蛇に立ち向かう。

 刀を振り上げて勢いよく走り出す。

 ちょっとだけ体が軽い。もしかして恩恵? かと思ったけど、その瞬間三つ目大蛇は先に動く。

 口から紫色の液体を吐きかけ、私を攻撃した。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 私は頑張って右に避けた。

 すると地面が抉れている。いや、溶けている。

 もしかして溶解液ってやつかな。そう分析したはいいが、対処法がなく足が竦む。

 触れたら死ぬって考えただけで頭真っ白になり、動けなくなってしまった。


「だ、ダメだ。動けなかったら死ぬんだ!」


 止まりそうになる体を奮い立たせる。

 こんなところで死にたくなんかない。

 私はその一瞬で向かっていき、次から次へと吐きかけられる溶解液を躱した。いいや、気が付いたら切っていた。


「そりゃそりゃそりゃそりゃ!」


 私は信じられなかった。まさかこんなに動けるとは思ってなかった。

 これも普段からやることがなさすぎて、部屋で寂しく筋トレをしていたおかげかも。

 今までのぼっち人生がここに来て活きてくれて嬉しくなり、少しだけ心が温まる。


「もしここで勝てたら、私、少しだけ自分に自信がつくかも……」


 あまりにもフラグめいていた。

 だけど私は完全に自分で立てたフラグを折り曲げると、刀を突き出して三つ目大蛇のお腹に刺した。


 グサリ!


 深々と突き刺さり、三つ目大蛇は悶え苦しむ。

 その動きに合わせて私も振り回されたけど刀が抜けないから動けない。

 必死に吹き飛ばされたようにしていると、どんどん刀の刀身が深く入っていく。

 もう訳が分からなかった。とにかく刀が抜けろと命じるように必死で堪えていると、金色の楔が刀の鍔から射出され、それと同時に刀がモンスターから抜ける。


「あれ?」


 私は吹き飛ばされた。

 体が宙に浮くと不思議な感覚になる。

 何とかして受け身を取らないと。その一心で受け身に全力になると、体が言うことを素直に聞いてくれて、しっかり受け身を取れた。おかげで怪我はしなかった。


「あ、危なかった」


 ホッと胸を撫で下ろす。

 しかしすぐにモンスターに目をやる。

 もしかしたら怒らせたから命無いかも。不安一杯で顔を上げると、そこにモンスターの姿はなく、気が付くと洞窟の中に引き返していた。

 ビビって逃げてしまった。私は自分が助かったことに安堵した。


「よ、良かったよぉー」


 全身から力が抜けた。

 その場にしゃがみ込むと足が震えて立ち上がれない。

 こんな経験をするなんて信じられなかった。だけど無事に生き残れた。それだけで満足した。


「ありがとう。刀さん」


 私は刀を鞘に納めた。

 するとズッシリとした重みが命の重みに感じた。

 この重さがあるから私は生きているんだ。なんとなく、そんな黄昏た気分になる。


「でもどうしてこんなことに……それにさっきの楔は何処から?」


 イマイチ分からないことの方が多かった。

 それがダンジョンなのかもしれないけれど、私は不思議とこの感覚が嫌いじゃなかった。


 怖い思いをしたのは確か。

 だけど生き残れたことが自信に繋がった。

 興奮はしていない。けど、何か胸が熱くなる。高揚感とは少し違う、もっと漠然たしたものだった。


「私、少しだけ自信が付いたのかな?」


 結論そうなった。

 だけどこんなところに長居は無用。

 急いでダンジョンから離れると、家に近かったおかげで誰にもバレずに済んだのだった。




「そう言えば、あれからだよね」


 私は天井を見つめて思い出していた。

 私が初めてダンジョンに行った時のこと。あの感覚があるから、私はまだダンジョンに行けている。

 怖い体験をしたおかげか、心が精神が鍛えら上げられて常人より強くなった気がする。


 あの後お母さんに電話で相談したら、そんな漠然とした答えを教えてくれた。

 だけどそのおかげで私は頑張れたし、今日に活きた。

 もしかしたら何も間違ってなかったのかも。自分を信じて良かったと、直感が高いことを嬉しく思った。


「だけどまだまだ豆腐メンタルは直らないもんね。はむぅ〜、どうしたらいいんだろう」


 私はダンジョンに居る時と居ないとかで全く変わっていないことに嫌になった。

 成長しているのか、ほとんど分からない。

 だけど前にだけは進んでいる気がした。

 夢に向かって突き進むなんて漠然とした望みはないけど、少しでも自分に自信が付けば嬉しいのにと、願うのが精一杯だった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 【あとがき】


 進夢がダンジョンに初めて来た回想編お終いです。我ながらいい感じに書けたと思います。

 ところで、この作品(私の探索者シリーズのお約束)的に違和感がありませんでしたか? 気付いて貰えたら嬉しいです。

 少しでも面白いと思っていただければ、星や感想・ブックマークの登録、後レビューを貰えると嬉しいです。

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