第7話

 地下室は蔵の隅っこに設置された扉を潜り、木製の階段を下りたら辿り着ける。

 とは言え地下室には特に面白いものはない。

 大きな機械が置いてあるだけで、私には扱えないものばかりだった。


「一体、誰が……」


 ギィギィと音を立て、階段を下りる。

 息を飲み、気配を完全に消すよう努力する。

 きっと気が付かれたら殺される。不安で一杯になる体を突き動かして地下室に足を運ぶと、そこには誰もいなかった。


「あれ、誰もいないの?」


 良かったとホッと一安心。胸を撫で下ろした。

 これで殺される心配はない。

 心配性で人見知りで豆腐メンタルな私はようやく安寧を勝ち取り、地下室に下りた。

 すると他に誰もいないはずなのに不思議な光が迸っている。見れば視界の先、壁の向こう側から漏れていた。


「あれ? この壁って……うわぁ!」


 触ってみたけど何も起きてない。

 変なのと思いペタペタ触りまくると、急に扉が回転した。まさかこんな仕掛けがあるなんて知らなかった。

 私は壁の反対側に連れて行かれ、そこにできた空間に驚く。


「えっ?」


 光が漏れていたのはこの小さな部屋だった。

 しかも真ん中には異様な形をしたマンホールが設置されている。

 かなりメカメカしくてSF色が強い。

 小説の中でしか見ない、次元転移用のポータルのようだった。


「コレって触ったらダメなものだよね? でもどうしてうちの蔵に……えっ、な、なに!」


 驚く私は腰を抜かした。

 急にポータルから光が溢れ出し、私の体を包み込んだ。

 眩しくて目を開けてられない。

 何が起きたのか全く分からず、体を丸めようとしたがそれも遅く、気が付くと私は知らない場所に来ていた。


「ううっ、こ、ここは何処?」


 そこは知らない洞窟の目の前だった。

 周囲は森で囲まれている。

 変なところに飛ばされた。そう思いスマホを手にすると、如何やら家の近くの森の裏、そこにできたとされる国指定のダンジョンの前だった。


「ここってダンジョン? な、なんでこんなところにいるの!」


 私はしどろもどろになってしまった。

 周りをキョロキョロ見回して誰か居ないか探してみる。

 しかし誰も居ない。知らない場所に一人孤独なり、恐怖で心が一杯になった。


「い、今すぐ帰らないと!」


 私は薬も使ってない。

 つまり今ダンジョンにいるのは、軽く死を意味していた。

 それを直感的、いいやお父さんやお母さん、お姉ちゃんが言ってたことから直結で脳裏に浮かぶ。

 たったそれだけで脚が竦んだ私だけど、ふと頭の中にピキンと戦慄が走る。


「も、もしかして、私がダンジョンに連れて来られた?」


 そんな風に考えるなんて、私も頭がお花畑になってるのかも。

 けれどそう考えるしかない。だって今の今までこんなことなかった。

 こんな不思議体験、普通することがないのだ。


「もしかして、私は探索者に……いやいや、それはないよね。うん」


 余計なことは考えない。

 速やかにここから帰ろう。

 そう思った私は一緒に持って来てしまった日本刀と一緒に、山を降りることにした。

 すると洞窟の奥から呻き声が聞こえ、私は足を止めた。


「な、なに?」


 ダンジョンにはモンスターというヤバい生き物がいる。基本的にはダンジョンから出てくることはない。

 だけどダンジョンの拡張が広がっていると、不意に出てくることもあるらしい。

 怖くなった私はその場を後にしようとした。その時だった。まるで“逃がさない”と言うような勢いで、洞窟の奥から外へ向かった駆け出してくる。


「な、なにか来る! 逃げないと」


 私は踵を返して逃げようとした。

 しかし逃げられなかった。

 全身が硬直……はしてないけれど、持っていた日本刀が震え出したのだ。


「ど、どうして急に刀が……うわぁ!」


 竹刀袋の中から日本刀が飛び出した。

 手の中にスッポリと収まると、不思議な感覚に陥る。よく見れば私の知っている日本刀よりも刀身が短く、おまけに手に馴染んだ。

 刀なんて振り回したことないし、剣道もやってないのにだ。


「私に使えってこと? これからなにが襲って来るかも分からないのに? ちょっと待ってよ、そんなの、私には……」


 私は一人ゴネていた。

 けれど、徐々にそんなことを言ってられない状況になる。洞窟の奥から巨大な黄色い目が蠢き、勢いよく洞窟の奥から姿を現した。


「ドッシャァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 な、なにこれ!? 私はそう思った。

 突然現れたのは三つの目を持つ巨大なモンスター。

 蛇のように長い体で、赤い舌をダラーンと垂らし、私のことを睨んでいる。


「な、なにこのモンスター?」


 私にはまるで分からなかった。

 だけど逃げられなかった。

 完全に睨まれてしまい、背を向けたら殺されると直感した。つまり、今できるならたった一つだけだった。


「た、戦えってこと? 私に? そんなの無理だよ!」


 震える体を抱き寄せた。

 しかし目の前に現れた三つ目大蛇は私に長い舌を高速で射出する。当たったら貫かれる。そう思い勢いよく左に飛ぶと、何とか攻撃を回避した。

 あまりにも奇跡だった。私は少しだけ生きながらえたことに安堵したが、ピンチはピンチのままなことに泣きべそを掻いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る