第6話

 その日私は夜遅くまで起きていた。

 まさか瀬戸内さんを助けるなんて。

 しかも助けた場所がダンジョンの中。

 本当に良かったと胸を撫で下ろす中、私はベッドの上で横になり、ボーッと思い起こしていた。


 そもそも私が如何してダンジョン配信者になったのか。

 それは本当に偶然だった。

 あの日、私が蔵のなかでたまたまポータルを見つけてしまったのが全ての元凶だったのだ。




 あれは私がまだ中学三年生の頃。

 私の住んでいる家は一軒家だけど、一般家庭には珍しくちょっとだけ大きな蔵がある。


 お父さんが建てたもので、地下まで備え付けてある。中にはたくさんのお宝? と言うかは分からない、置物や骨董品が収納されていた。

 けれど同時から私は興味がなく、一応埃が被らないように掃除くらいはしていた。


 そんなある日のことだった。

 私は一ヶ月に一度は空気の入れ替えをしないと、木造の蔵が傷んでしまうとお母さんに聞いていたから重たい扉を開けて、中に入ったのだ。


 ギィー!


「よいしょっと。うん、そこそこ綺麗だね」


 毎月掃除をしているおかげか、蔵の中は綺麗だった。

 並べられたよく分からないお宝が木製の棚に納められていた。

 きっと某鑑定番組に出したら、全部偽物って言われるようなものだったけど、お父さんが残したものを大事にとっていた。それだけで良かった。


「あれから五年。本当にダンジョンなんかに行ったから……」


 私のお父さんとお母さんは二人とも学者。

 大学で教鞭を取っている。

 だけどその傍ら、ダンジョン研究の第一人者でもあった。

 同じく日本で有名な佐鳥博士とも知り合いで、界隈では凄い人だと讃えられている。


 けれど私は興味がない。

 両親は活発で冒険心があるけれど、私はネガティブで豆腐メンタルで、アクティブな性格じゃないからだ。


 それに何よりダンジョンが何かよく分かっていない。

 研究者達の間では、こことは違う世界がスーパーノヴァと呼ばれる超新星爆発に巻き込まれ消滅する間際、テレポートの魔法を使って、この世界と同化したと説を唱えている。

 その時ちょうどこの世界でも自然災害が多発していて、それこそが兆候だったと今では言われている。


 おかげでファンタジー映画でしか存在していなかった、未知の溢れるダンジョンができ、ラノベや漫画でしか見たことない獣人やエルフ、ドワーフのような種族との交流も生まれた。


 それがこの世界の常識になったのは、今から数十年前のことで、まだまだ日は浅い。

 だからこそ、未知が溢れるダンジョンに心躍らせる人は多いけど、私はそんな気がしないのだ。

 だって怖いから。ダンジョンで死にたくないからだ。


「お父さんはダンジョンで……ううっ、やっぱりダンジョンなんて……ん?」


 私はふと気になるものを見つけた。

 棚の上の方。横長のものが置いてある。

 竹刀袋の中に収められていて、今まで気にも留めなかったのに、ついつい気になってしまった。


「なんだろ、これ?」


 棚の上は流石に手が届かない。

 踏み台に乗り、手を伸ばすと竹刀袋を掴んだ。

 ちょっとだけ重たい。だけど暇すぎて暇すぎて、普段から家でちょっとだけ鍛えている私はそのまま引き寄せ、手元に寄せた。


「よっと。うわぁ!」


 結構両手にずっしりくる。

 そこまで重たくないはずなのになんでだろう。

 そう思って竹刀袋の中身が気になってしまい、豆腐メンタルな私は目を瞑って、勇気を出して紐を解いた。


「こんなに重たい剣道の竹刀ってあるのかな?」


 竹刀袋の中身を見る。

 すると中には本物の日本刀が入っていた。

 しかも人に手垢も付いていない。ヤバいものだったら如何しよう。もしかして私犯罪になっちゃう!? 

 急いで手を離そうとすると、足が台座から外れ、体がフワリと軽くなる。


「あっ!」


 私は台座から足を滑らせて、盛大に尻餅をついた。

 竹刀袋の中に入っていた日本刀が抜け、お腹に乗っかる。


「痛たた。ううっ、どうしてこんなことに?」


 こんなギャグみたいなこと、今までなかった。

 それに私はボケじゃない。天然でもないと信じたい。

 なのにこんな偶然あるのかな? もしかしたらこの日本刀を見つけてしまった呪い……なんて考え出すと、豆腐な私は震えてしまった。


「は、早く元の場所に戻そう!」


 日本刀を竹刀袋の中に戻した。

 すると今度は地下室からドン! と今まで聞いたことない音が聞こえた。

 怖くなった私は「ひいっ!」と声を上げる。

 もしかして不法侵入者!? 怯える私は座り込んでしまう。


「な、なに? だ、誰かいるの?」


 そんなはずない。

 だって鍵は閉まってた。

 でも地下室なんてそんなに足を運んでない。もしかしたら勝手に誰か入り込んで……ああ、どうしよう。私はパニックになり、あたふたし始める。


「ど、どうしよう。お母さんも今はいない、お姉ちゃんは……帰ってない。あっ、ああどうしよう!」


 私は頭を抱えてしまった。

 だけどこうしている間にも悪さが起こってたら、そう考えただけで怖くなる。ここは私が頑張るしかない。そう思い、日本刀を手にした。


「正当防衛、正当防衛。落ち着け、私。ゆっくり、ゆっくり行くよ!」


 豆腐な私は前に出た。

 地下室へ続く階段はこの先にある。

 まずは下りて様子を見ようと、ゴクリと息を飲んでいた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 【あとがき】


 今回から少しだけ回想に入ります。

 それにしても、皆さんはベッドに入った後って考えちゃえませんか?

 進夢は初めてダンジョンに行った時のことを思い出しちゃったみたいです。

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