第5話
オニカジリは無事に倒された。
中から青紫色を色をした石ころ=魔石が落ちてくる。
私は達成感からオニカジリから下りると、落ちていた魔石を拾い上げポーチの中に仕舞うと、瀬戸内さんの下へと向かった。
当然カメラドローンのマイクは切ってある。だから安心して喋れた。
「大丈夫、瀬戸内さん?」
「えっ、うん。私は大丈夫だけど……」
「良かったー。これで一安心だね」
ホッと胸を撫で下ろした。
瀬戸内さんも無事、モンスターも討伐した。
結果オーライで、後は瀬戸内さんを連れて外に出るだけだ。
「瀬戸内さんはダンジョン調査課で許可証を貰ってるんだよね? 能力って脱出に使える?」
「一応使えるけど……ううっ」
瀬戸内さんは能力を使おうとする。
しかし足を捻って痛いのが健在で、能力を使える状態じゃない。
「あー、動いちゃダメだよ」
余計に動かしてダンジョンから出た時に変なことになると怖い。
ダンジョン調査課で薬を服用しているなら、私と同じで能力は使えて、外に出たらある程度の怪我は治る。
けれど余計なことをして、反対に曲げちゃうと治らない。病院に直行にって欲しくないので、私は瀬戸内さんに手を伸ばした。
「立てる、瀬戸内さん?」
「う、うん。ありがとう」
瀬戸内さんは私なんかの手を取ってくれた。
嬉しかった。温もりが手のひらから伝わり、ポッと胸と心が同時に温かくなる。
「それじゃあ帰ろ。私が肩を貸すから」
「ありがとう。ところで……」
「ん?」
瀬戸内さんに肩を貸した。
するとずっしり重さが伝わる。
そんな中、瀬戸内さんは私に質問をした。
何か気になることでもあるのかな。私なんて、瀬戸内さんに質問されるようなことしてないのに。
「どうして仮面をしているの?」
とてももっともな質問だった。
確かに初見で仮面を被った、見ず知らずの誰かとなんか話したくない。
私だったら絶対に怖くて関わり合いになりたくない。
客観的な目線に立ってみると、かなりの変人だと気付いてしまう。
「え、えっと……そのー」
私ももちろん困ってしまった。
ここまで誰とも話してこなかった弊害が出る。
せっかくフランクな関係で話せているのにと、自分が嫌いになる。
しかしそんな私の気持ちを配慮したのか、瀬戸内さんは笑みを浮かべた。
「顔、見られるの恥ずかしいの?」
救いの手を差し伸べられた。
これは掴むしかない。そう思い、私は心の中でその手を伸ばす。
「う、うん。ごめんなさい」
「謝らなくてもいいよ。顔バレNGの配信者だって多いから」
瀬戸内さんは笑顔のまま答えてくれた。
こんな顔も明かさないのっぺりとした仮面を被る私のことを見てくれていた。
嬉しいけどその反面で情けなかった。
ちゃんと顔を出せたらなと思った時だった。急に仮面の一部が砕けた。
ポロン!
「えっ!?」
視界がクリアに見えた。
右目のところだけが完全に顕になり、咄嗟にカメラドローンの映像も切る。
しかし一瞬だけ瀬戸内さんに見られてしまった。
不覚と思い、急いで余った手で顔を隠す。
「あれ、やっぱりその声と目……」
「見た?」
「見たよ。ちゃんと見たよ。綺麗で可愛い目をしてるよね」
「ううっ……」
やっぱり見られたんだ。
瀬戸内さんに見られるなんて、明日から如何接したら分からない。
怖いな。不安だな。消えちゃいたいな。
私は押し寄せるマイナスがネガティブな意識に結びつき、まだ何もしてないのに、豆腐メンタルな心が揺らいだ。
「ご、ごめん。顔バレNGだったよね? 私、目だけは見ちゃったけど」
「いいよ、もう」
「本当にごめんなさい。でも、私は好きだよ。貴女の目、とっても綺麗で聡明で、人のことをよく見てる目立って分かるから」
瀬戸内さんは何とか話を取り繕う。
もしかしたら無理をさせてるんじゃないかな。
私が落ち込まないように話を合わせてるんだ、きっと。
それがヒシヒシと伝わると思ったが、能力が反応した。冷たい感覚がしない。むしろ心地良い程度の温もりを抱いている。
「これって……」
「どうしたの?」
瀬戸内さんが気になって私に顔を近づける。
恥ずかしさのあまり顔を背け、適当に突き返す。
「な、なんでもないよ! それより帰ろう」
「あっ、ちょっと待って。速い、速いよ!」
私は瀬戸内さんを連れて急いでダンジョンの洞窟を脱出する。
ここでモンスターに遭遇するのは敵わない。
能力を活かし、モンスターとの接敵を全力で回避しつつダンジョンの外に出るため歩みを急ぐ二人だった。
その後ろ姿をカメラドローンは捉えていた。
無音な上に後ろ姿のみ。
けれどコメント欄は二人の熱い関係を読み解くと、ウルハだけではなくアスムの評判も鰻上りで上昇していたことを、この時の二人はまだ知らなかった。
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