第4話
私は体が先に動いていた。
自分でも不思議なくらいだった。
けれどカメラドローンのカメラが追い付くよりも早く、時間を飛び越え崖から飛んだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
鞘に収まっていた刀を抜いた。
キラリと鉛色の刀身がお目見えする。
眼下にはモンスターの姿。四足歩行の獣で鬼の形相。私はこのモンスターを知っている。だからこそ、刀を抜いて叩きつけるのだ。
「きゃっ!」
少女の瀬戸内さんの悲鳴が上がった。
その瞬間、刀がモンスターの背中に触れた。
カキーン!
金属の刃が叩きつけられた。
黒く鎧のようなボディから火花が上がる。
しっかりとした肉質の部位に当たったのか、モンスターは悲鳴を上げた。
やっぱりオニカジリは強い。私はそう思った。
戦ったことはないけれど、公式サイトのモンスター図鑑に載っていた。
けれどここまで硬いとなると、ダメージが入っているかも分からない。しっかりと肉質の通りが良い場所に当てたはずなのに、まだまだ倒れそうにないが、一瞬だ下動きを止めることには成功する。
「やっぱり私一人じゃ倒し切れないのかな」
地面に着地した私はしっかりと低い体勢で受け身を取り、衝撃を大幅に軽減した。
後ろには足を捻って倒れている瀬戸内さんがいる。
もしかしたらオニカジリに遭遇して、逃げようとした時に、足を捻って叫んだのかもしれない。
それを聞き付けてやって来たアスムだったが、すぐには瀬戸内さんも動けそうになかった。
「あ、貴方、今飛んで来たよね?」
「うん。でもそんなことを言ってる場合じゃないよね」
「えっ?」
「大丈夫? 足を捻って動けないんだよね」
「う、うん。そんな時にモンスターに出逢っちゃって……えへへ。じゃないよね! ごめんなさい」
瀬戸内さんは頑張って笑顔を振り撒いて、雰囲気だけでも変えようとした。
けれどすぐに表情が曇り始める。
足を捻って動けない。役立たずな自分が嫌になっている。
「謝らないで」
「どうして、そんなこと言ってくれるの?」
「それは……」
私は黙ってしまった。
それもそのはず、オニカジリが動き出した。
しっかり当てたからから、時間を稼げたけれど、ここからは本気で当たらないとダメだった。
「ダンジョンで失敗することはあるよ。でも、それでもめげずに立ち上がれるから、応援したくなるんだよ。だって、貴女は……瀬戸内さんはずっと頑張っているから」
「えっ、どうして、私の名前を……」
瀬戸内さんは驚いていた。
目を見開いて固まっている。
「それじゃあ、ここからは私が行くね!」
私は頑張らないといけない。
動けない瀬戸内さんの代わりに頑張るしかない。
お互いの命を守るため、私は一人立ち向かう。
「ど、どうするの?」
「大丈夫。私は負けないよ」
ダンジョンで負ける気はしない。むしろ負けたくないから勝ち気に行く。
ここにいるのは、臆病で豆腐メンタルなコミュ症ぼっちの飛鳥進夢じゃない。
一人のダンジョン配信者、仮面を被った豆腐メンタルなアスムだった。
「確か、オニカジリの弱点は額だったよね。それなら!」
私は高く飛んだ。ようやくカメラドローンも追いつけたのか、姿を捉える。
すふと珍しいアスムの活発な動きに、コメント欄が大いに盛り上がっていた。
:なんだなんだなんだ!
:アスムさんが飛んでる?
:こんなに動けたのかよw
:ってか強すぎな?
:このまま倒すのかよ
:しかもウルハさんを助けるって……これキタゾ!
etc……
探索者の身体能力はダンジョンにいる間だけは上がってくれている。
そのおかげか、並の人以上の跳躍力でオニカジリの前脚を蹴り上げ飛んだ。
「そりゃあ!」
前脚を踏み台にすると、早速急所で弱点の額に刀の切先を突きつける。
しかし自分の痛いところが分かっているのか、オニカジリは鋭く尖った犬歯で噛み砕こうとする。
鬼と犬が混ざったのがオニカジリ。凶暴性を露わにし、私のことを噛み喰らおうとする。だけどここで死ぬ気はない。
「それくらいなら!」
刀の刃を合わせて喰われないように抑え込んだ。
刀の刀身が軋みだし、ガタガタと今にも折れそう。
おまけに私の腕にまで衝撃が伝わって、プルプルと震えてしまった。
「痛い……けど!」
刀の刃を反対向きにした。
そのまま押し込むと、切先も刃先も全部食い込んで痛みが駆ける。
モンスターにだって痛覚はある。痛いと言う感情が意識を狂わせ、発狂させた。
「オニガァァァァァァァァァァァァァァァ!」
オニカジリは瞬く間に暴れ回った。
グルグル回転し始め、振り落とされないように私も掴む。
けれど遠心力に負け振り落とされそうになった時、瀬戸内さんが叫んだ。
「負けないで!」
そうだ。負けないって訴えたんだ。
私は気合いで刀の柄を掴むと、一気に引き抜き駆け上がる。
顔面を蹴り上げて、額にできた見るからに弱点な隙間を縫って、切先を突き刺した。
「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
深く深く刀を突き刺した。
当然オニカジリは暴れ出す。
けれど同時に動かなくなるのも時間の問題で、気がつくとピクリともしなくなった。
ゴトン!
巨大が地面にうつ伏せで倒れる。
体の中から青紫色をした石ころを吐き出してだ。
私はそれを見届けると、刀を鞘に納めた。カチン! と綺麗な音を鳴らし振り返ると、瀬戸内さんと目が合った。
キラキラとした瞳。まるで誰かに恋をしているみたいな、そんな様子で薄く頬を赤らめていた。
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