第3話

「ここ。ここの鍵が壊れているんだ」

 箕島先輩は頭が良い。

 学校の成績が良く、だからか色んなことを知っている。

そう、色んなことを。

 先輩が木造校舎の窓の一つをガタガタと動かして開けたときも、『よく知ってるな』という呆れと、しかし『箕島先輩だしな』という納得とが入り混じった。

 白い丈の長いワンピースを着て、淡い蒼のリボンを結いた先輩は、あいもかわらず避暑地に来たご令嬢のようだ。

 全体的に色素が薄いものだから、病弱な少女、もしくはそれこそ怪談に出てくる幽霊のように見える。

 しかし、口に懐中電灯を加え、躊躇することなく窓に足をかけて中に入る様は、ご令嬢のソレとは違う。言い方はあれだが、なんていうか、山猿。ガキ大将という感じである。

「先輩。それ以上はしゃぐと下着が見えてしまいますよ」

「ここには河方後輩しかいないのだから問題あるまい」

 念の為、忠告をしてみたものの、あっさりと切り返される。

 いや、確かに同じ女子しかいないのだが、しかし。

「女性同士とはいえ、一応、危機管理をですね」

 外見だけはむちゃくちゃな美少女なのだから、気をつけたほうがよいのでは。という意味を込めて続けたのだが。

「いや、そういう意味じゃなくてさぁ……」 

 先輩は首を傾げて不思議そうにこちらをみた。けれど。

「まぁ、いいや」

 次の瞬間には、くるりと踵を回し、後者の中に入っていく。私は慌てて先輩の後を追った。

 ちなみに私はジャージ姿である。動きやすく実用的だが面白みの無い芋ジャーと呼ばれるものだ。けれど、あまり着飾りたくない私にとっては、集団に埋没するこの衣服はかなりの気に入りだった。……自分が着飾ったところでろくな事がない。そういうことをもう十分に知っていたからだ。それに。芋ジャーは兎にも角にも動くのには適している。だから、窓も余裕で乗り越え、中に入った。

 まず見えたのは木で作られた長机と椅子。赤と白の人体模型。ここは理科室である。

 歩くとギシギシと木の板が鳴り、肝試しとしては丁度良いスポットだろう。けれど、教室内に先輩の姿はすでに無く、廊下を歩く音が聞こえた。

 この先、教室三個分を歩くと、玄関と靴箱、そして、中央階段がある。

 先輩の目的はそこだろう。

 なにせ中央階段は、十三階段なのだから。


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