第142話 火球と火球


ゆっくりと、武器を構える。


「rrr…」


呼応するかのように竜は眠りから目覚め、

縦に長い瞳孔でこちらを見る。


「BRHOOOOOOOO!!!」


初手に咆哮一発。

無目的で迷い込んだプレイヤーなら

これで退散しているだろう。

だが我々は、こいつを倒しにここまで来ている。

退く要素などない。


「火球」


弓の上部にやじりをあてがい、

火球をやじりに付着させる。


「rrro…」


竜の喉が明滅し胎動する。

ここに来るまでに、

こいつとの戦いを想定して

一つ考えていたことがあった。

奴の口の中に矢をぶち込めば

面白いんじゃないかと。

明滅が口まで到達し、そして開くと同時に放つ。


「BRHO


威勢よく叫び始めた口に火球が爆ぜ、

元々口内で準備していた奴の火球も誘爆し、

今までで見た中で最大の爆発を見せた。

振動で洞窟が揺れる。


「オウオウオウ」


やっと晴れた煙の中で、

竜は口を焦がしてこちらを睨んでいた。

やはり体内で火を扱うだけあって、

火耐性があるのだろう。

それでもダメージは見て取れる。

当てる感覚は掴んだ。

これが続けば、勝てる。


「rrr…」


喉が明滅し胎動、口まで運ばれる。


「火球」


今度は口が開く直後を狙い、

よりその喉奥で起爆させる。

煙が口から漏れ出て、火竜が仰け反った。


「フン!」


その隙を見逃さず、

桃子猫が竜の顔に飛びついて目を切りつけた。


「BRHOOOOOOOO…」


最初の咆哮とは似ても似つかないような、

弱々しい悲鳴を発する。

だが竜は所定の位置から動かない。

そういうプログラムが

組み込まれているのだろう。

そう考えていたが、

火竜はジリジリと後ずさった。

ここに来て逃げるのか?。

後ずさっただけで火竜は

視界から居なくならない。

よく見ると火竜の後ろ足が

洞窟の奥に消えていた。

まずい、このまま倒すと巨体で洞窟が塞がり、

岩石砂漠地帯へと踏み入れられなくなる。

桃子猫もそれをすぐに悟ったのか、

攻勢に出られずにいる。


「BRHO!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る