第141話 保護者目線


正門。


「ところで、橋の場所はわかりますか?」

『ああ、ベータ版からある場所だから覚えている』

「なら説明はなしで、真っ直ぐ洞窟に向かいます」

『ああ』


荷物を置かせてくれそうな知り合いとして

頼ったものの、いざ同じ道を歩くとなると

会話が思いつかない。


『ところで、そこの猫の嬢ちゃんは

喋らないのかい?』

「ア…」

「彼女は事情があって、

翻訳機能を切ってるんです」

『母語はなんだい?』

「彼女は中国語だと…」

『そうか、私は韓国語しか喋れないから、残念だ』


桃子猫が袖を引っ張る。


「私、韓国語話せル」

「韓国語が話せるそうです」

『そうかい、なら…』


二人の韓国語による会話が始まったらしい。

また自分抜きの会話。

だが時折気になるやり取りがなされる。


『二人はどんな関係なんだ?』

『おっほほほ、数日で家まで知った仲だと』

『その家のベッドで一緒に寝てる!?』


どこまで話してるんですか。


『へぇ…ふぅん…』


明らかにドワーフがこちらを

見る目が変わってきた。


『まあ、末永く…な』


保護者目線だこれ。

恥ずかしくて死にそう。

ところが話題が変わったのか、

ドワーフの目付きが真剣になった。


『ほう、家が…そりゃ大変だな』

『金持ちってのも楽じゃないんだな』


身の上でも話しているのだろうか。


「あっ着きましたよ」


リンゴの木に囲まれている洞窟。

しばらくぶりだ。


『では、私は一旦ここで待つから、

先に行っててくれ』

「はい」

「ウン」


洞窟の入口の縁に腰掛けるドワーフを尻目に、

中へと入る。

中はやはり暗黒だが、

既に手を繋いでいるので問題ない。


「懐かしいネ」

「ええ、まったく」


当時は右も左も分からない状況で、

桃子猫と手を取り合っていた。

人間性能SSRだとは思ってもみなかった。

なんなら中身は幼女くらいに

考えていた気もする。

徐々に、二人の足音以外も聞こえてくる。

以前はこんな音を気にする余裕もなかったか、

あるいは起きた直後だから聞こえなかったのか。

いびきが聞こえる。

前に進むにつれ大きくなるそれは、

凱旋の讃歌か警告か。

やがて暗闇の中にほのかな

明かりが見えはじめる。

その正体はやはり、

ヒビの隙間から見える鉱石の光。

やや開けた空間、その中央に鎮座する赤燐。

緩慢に上下するそれは、

龍と呼ぶには少し抵抗感がある、

ずんぐりむっくりのサラマンダー。

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