第47話 その間約一時間


「!」


唐突に隔たりは消された。


「あー…」


桃子猫は、肌着の上にブラジャーを装着し、

下は履き替えてなどいなかった。

そりゃそうだ。

試着なのだから、

肌に直接つける訳にはいかない。

何を期待していたのか。


「ドウ?」

「そうですね…」


自分の色というものを理解しているのか、

これまた深い赤が当人によく似合っている。

このプロポーションが着ているとなると、

少数はひがんで多数は眩むことだろう。


「すごく似合ってますよ」

「ホント?じゃあ…」

『プチ』


おっと。


「これとかどウ?」


濃い藍色に装着し直した。

それよりも、

目の前で脱ぎ着したことに動揺してしまう。

学生の頃に、

他人の着替えなんて飽きるほど見たはず。

いや、あの頃から見ないようにしていたような?。

こっちも隠してたような?。

それよりも感想。


「こっちもいいですね、クールな感じがして」

「そう?エヘヘ」


桃子猫の耳が少し赤くなっている、気がする。

勇気を出して私に下着の魅力を

伝えているのだろうか。


「私も何か買おうか「ホント!?」


すごい食いつきようだ。

言ってみるものだ。


「ちょっとまっテテ!」


カーテンが閉ざされ、

桃子猫は鬼の早さで着替えた。


『ジャッ』

「オッケー!」

「ははは」


歩調を浮つかせながら、先程の場所に戻る。

早速桃子猫はいくつかの下着を手に取り、

私の体と照らし合わせた。


「ンー」


動くことままならない。

視線だけで、こちらも探す。


「ランさん…エート…胸のおっきさハ?」

「えーっと…AAです」

「ンーカワイイねー」


桃子猫なりのフォローだろうか


「じゃあ多分こっちじゃないネ」

「あ、確かに」


数列隣に移動する。

そしてまた直立不動。

桃子猫は楽しそうに吟味をしている。

いつまで続くのやら…。


「お」


ついでと思って目で探していたら、

一点に目が止まる。


「どしたノ?」

「あれ…」


反対側に掛けられた、黄緑色。

回り込んで手に取る。


「ふふ」


一目で気に入った。

高級感を演出する風の筋が。

また黄緑色と相まってメロンのように見える。

それがなんともギャグのようでおあつらえ向きだ。


「これ…良くないですか?」

「ウン…ウン!イイネ!」


一瞬淀んだが、予測の範囲。

桃子猫の美的センスに外れてしまって悪いが、

これは個人で購入しよう。


「桃子猫さんも何か選んでくださいよ」

「イイの?」

「ええ」


一時間後。




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