第48話 勘違いローリング



一時間後。


「コレとコレ!」

「はい…はい…」


同サイズの下着を網羅し、

一時間の末に出た最終選考の結論は、

それでも二着選ばれた。

黒と紺。

どうやら桃子猫は私に暗い色を

イメージしていたらしい。

淀みの原因は色だったか。


「ランさんも、選んで?」

「いいですよ」


高いカップ数の列に戻る。

そして改めて、その差が分かる。

一時間見ていたので、

目に焼き付いていたのもあるが、にしても大きい。

…大きい。

先程の着替えで、

かさ増ししていないことを知ったので、

余計にそう思う。

胸囲の格差社会…。

ひがんでも仕方ない。

要領は得ている。

両手を持って桃子猫に下着をかざす。

やはり服装の濃さが目を引く。

本人がイメージカラーを自覚してのことだろう。

ただ、桃子猫の肌は白い。

それに暗い色を加えるのは、

やや映えすぎるような気がする。

考えても正解は出ない。

取り敢えずあるものから妥協案を…。


「どしたノ?」

「いえ…」


何の気なしに、無作為に掴んでかざした色。

それがよく、

ドッペルフリーで桃子猫に渡したリボンの色と、

よく似ている。

淡いピンク色。


「これ、いいんじゃないですか?」

「コレ?」

「はい」


会って三日ほどだが、

桃子猫のことは三割も理解出来ていない。

それでも、桃子猫は私に隠している、

内に秘めるものがある気がする。

この色は、それを端的に表しているように見える。

当てつけとかではない。

ただ、的を得たプレゼントがしたいだけだ。


「…」


反応を伺いたいが、桃子猫は何も言わず、

動きもしない。

店内で膠着するのもあれなので、

何か後押しできる言葉。


「その…服とのギャップが

あっていいんじゃないですか?」


自分の言葉を疑ってしまい、

疑問形になってしまった。


「うん…うん…ワカッタ」


そっぽを向いて、

何か含みを納得しているように見える。


「やっぱり、お気に召しませんでしたか?」

「ウウン、違うノ、その…意外だったシ、

ンー…脱がされるコト?は考えてなかったかラ…」


はぁ。

え?。


「あぁあぁあぁ!確かにそうですね!

そうですよね!はははっ!」

「アハハ…」


顔を合わせられない。

自分の顔も桃子猫もどうなっているか分からない。

紅潮していないことを祈る。


「…会計しましょうか」

「ウン…」


俯きながら、黙って会計に進む。

首振りで意思表示することを申し訳なく思う。

丁度隣も会計のようだ。


「「ご来店ありがとうございましたー」」


それも同時に終わった。


「ん?」

「エ?」


両者が別の紙袋を持ち、見合う。

隣で会計していたのは、桃子猫だった。

だが私も会計していた。

つまりは握っていた下着を、

そのまま互いに包んだということか。


「あはは…桃子猫さん、どうぞ」


先程選んだ下着を渡す。


「ランさんも…」


二人とも会計するつもりだったようで、

今まで下着を渡していなかった。


「…ぷっ」

「フフフ」


珍妙な出来事は、気恥ずかしさを吹き飛ばした。


『ギュ』


「え」


急に抱き締められる。


「楽シイ!」

「…そうですね、私も」


抱きしめ返す。


「ウフフ」

「おぅおぅおぅ」


回り始めた。

まあ楽しそうなので放っておこう。


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