第24話 交渉のお勉強


即座に買い出しに行ったトカゲを連想する。


『あ、あれは…』


後続が次々と大通りに出てそしてエルフ達を見る。

視線に気づいたのかエルフ達もまたこちらを見る。


『おやおや、どうなされました?』


嫌味ったらしい口調で、

先頭を歩いていた男エルフが話しかけてきた。

エルフの顔面をこれでもかと煌びやかにさせた、

ホストのような男だ。


『その肉、一体…』


リザードマンが傍らの女エルフの肉を指さす。


『ああこれね新しい商売を始めようと思いまして』

『新しい商売?』

『ええそうです、獣人やリザードマン向けに肉を売り出そうと…ね』

『しかし…それでは転売と同じでは?』

『いえいえ、きちんとした加工を施しますので、

レストランと呼んでください』

『はぁ…』


反論が終わる。


『話は終わりましたか?では…』


エルフの集団は大通りへと消えていった。

不信感を置き土産にして。


『…くそっ』


ある者は悪態をつき、ある者は膝を折る。

かくいう私も俯いていた。

その中で、桃子猫だけがしっかり前を向いていた。


「…違ゥ」

「と言いますと?」

「さっきのエルフの人達ハ、なんか…服が違った」


言葉の真偽を確かめるため、人混みに目を凝らす。

確かに、先程のエルフ達は

初期装備より大分寂しい見た目をしていた。


「確かに違いますね」

「デショ?」

「リザードマンさん」

『はい?』

「防具屋はどこか分かりますか?」



『なんと…』


リザードマン達に連れられて来た防具屋。

そこには、エルフの初期装備らしき物品が大量に売られていた。


「何を買うんだい?」


NPCの店主が、商品を眺めるだけの私たちに痺れを切らして言った。

髭面を蓄えた、

シャツを筋肉で破いていそうな店主だ。


「この髪飾りとか、耳飾りみたいなものって、

エルフが持っていたものですか?」

「いや〜ちょっと思い出せねえな〜」


わざとらしく言われる。

武具をを眺める。

腰ほどの高さの、手頃な杖を発見する。


「これ、良い杖ですねー」

「おー嬢ちゃんお目が高い、

そりゃ魔法の効果を高める魔法の杖さ」

「へぇー」


願ってもない代物だ。


「おいくら?」

「銀貨二十枚なら、浮ついて口も滑らあな」


財布を見る。

銅の数は多いが、銀の数はどう見ても少ない。


「予算はこれくらいなんですが…」


カウンターに硬貨を並べる。


「銀貨八枚と…銅貨十八枚、実質銀貨八枚か」

「今ならこれもお付けします」


巨猪の中型の角を、ひとまず一つ置く。


「へー、ホーンボアの角か」


巨猪はホーンボアと呼ぶらしい。


「これで実質いくらです?」

「銀貨十三枚だな」

「じゃあこれとこれもお付けします」


小型の角を二本置く

大型のものもあるが、これは取っておきたい。


「銀貨十六枚」

「これで…まけて貰えませんかね?」


材料はもうほとんどない。


「難しいね」

『我々からもお願いします』


リザードマン達が頭を下げる。


「リザードマンの顔で何がまかるってんだ、

足りないなら帰ってくんな」

「それなら…」


桃子猫を持ち上げ、店主と顔を合わせる。


「お願イ…」


すぐに察知し、桃子猫も乗ってくれた。


「うぐ…仕方ねえ、子猫ちゃんに免じて売ってやろう」

「ありがとうございます」

「毎度」


杖を受け取る。


「で…だ」


店主はエルフの装飾品を指さす。


「あれは昨日の夕方辺りに、

確かにエルフの集団が売りに来た代物だ。

危うく金庫の金が出るところだったがな」

「総額は?」

「総額で言えば、金貨二、三枚になるかな」

「銀貨で言うと二百五十くらい?」

「ああそうさ」


この杖の十倍以上。

それに加算して薬草のクエスト報酬の金。

三百はくだらないか?。


「今日は色々と勉強させてもらいました」


「毎度」

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