第23話 肉だけしか食べられない


「!?」

「え…」


桃子猫が声を発したことにより、

全員がこちらを向く。

おそらくはプレイヤーであろう、

リザードマンの群れ。

十人はいるだろう。

共通する点は、

ほぼ全員が地面に伏せっていることだろうか。

そして虚ろな目をしていること。

うつらうつらと、今にも眠ってしまいそうだ。

そんな目で、私たちを見ている。

正確には、お腰につけた肉を。

桃子猫と見合い、頷く。

救援開始だ。

腰紐を解き、肉を外す。

そして一人一人に手渡していく。


『え…』


前列は驚きの表情をしながら少し固まる。


『おぉぉ…』


後列は希望に満ちた目でこちらに手を伸ばす。

肉にかぶりついている人に更に手渡せば、

咥えながら両手を頭上に頂いた。

全員に二、三枚渡ったところで、品切れとなった。



『『『ありがとうございました!!!』』』



五体投地。

狭い路地に直線的に披露される、異国の上級の礼。

それに圧巻され、言葉が出ない。

最も近いリザードマンが、顔を上げる。


『この度は誠にありがとうございます!』

「ああ、いえ…スー…こちらこそ?」


ここぞと言う時にオタクが出てしまった。


「どうしてこうなったノ?」

『…?』


桃子猫の言葉に、

彼らは見合いながら疑問符を浮かべている。


「多分翻訳が…」

「ア…」


ここは翻訳の設定を弄っていない、

私が話すべきだろう。


「どうしてこうなったんですか?」

『実は我々同じチームのメンバーなのです』

『ですが肉以外が

食べられないことを知りませんでした』

『街に早めに着いたので生計を立てていたのですが、供給が間に合わず』

『挙句財布を託して買い出しに行かせた同志が、

未だ帰ってこないので…』


あのトカゲ、

最初に出会ったリザードマンを連想する。


「もしかして…」


もう一つお腰につけた袋を、

リザードマン達に見せる。


『『『おおおっ』』』


歓声が上がる。


『そ、それは…』

「ここに来る途中、

あなた方の仲間らしき人が行き倒れているのを見て、先程と同じようにお肉を分けたんです」

『その見返りに…』

「はい」


当然ながら一つの疑問が浮かんでくる。


『なぜ買い出しに行った同志が街の外に…?』

「品切れで、外に調達に行ったのでは?」

『ゲームなのにそんな…』


全員がありそう、という顔になる。


「とりあえず、この財布は返しときますね」


ところが差し出した袋を押し返される。


『いやいや、その財布の中身なんて

五切れ買えるかどうかの端金ですよ』

『むしろ返すものも返せず申し訳ないくらいですよ、袋も受け取ってください』

「ありがとうございます」


袋をまた腰に装着する。


「これからどうするんです?」

『とりあえずは買い出しに行った同志を探しながら、狩りへ赴きたいと思います』

「そうですか」


踵を返す。


「また、何かあればいつでも助けになります」

『それはこちらの台詞です、

どうか中央まで見送らせてください』


ここで断れば向こうもばつが悪くなるだろう。


「お願いします」




立ち上がるとわかる、人を遥かに凌ぐ体躯。

それに気圧され、桃子猫と密着して歩く。

それを悟られないよう、何か話題を探す。


「そういえば、なぜこの路地に集まったんです?」

『それはですね、なにぶん体の大きな我々ですので、街の真ん中で動けなくなってしまっては、

プレイヤーのご迷惑になるかと』

「なるほど」


気になるついでにもう一つ。


「お金はどこで手に入るんです?」

『冒険者ギルドですね』

「ほほう」


聞き馴染みのあるものが、このゲームにあったとは。


『財布も貰える、

初回限定の薬草採取クエストがあるんですが、

我々の余った薬草を渡したら

達成しちゃったんですよね』

「そうなんですか!」


このゲーム、変なところが緩い。


「そういえば、唾を飲み込むと乾きゲージが回復するらしいですよ」

『それはそれはこのゲーム意外と穴がありますな』

「ええ本当に」


会話をしていると、

ほんの少しだが桃子猫の腕の締め付けが強くなる。

毎度それを落ち着かせるように、

こちらも緩く締め付ける。

そうしているうちに、人工の灯りが増え始める。

人も多くなり、それぞれがこちらを一瞥する。


『もうそろそろですね』

「はい」

『冒険者ギルドは、大通りの右側にあるので、人だかりを見てください』

「わかりました」


最後らしい小路を抜ける。

先程の公園と同じ景色が眼前に広がった。

ただ一つ違った点は。

肉を抱きしめるエルフの集団がいたこと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る