第21話 気分と標高の高低差

「くはぁ…」


何も知らずにこの人は…。

いやらしいところを突いてくる。

そりゃ私だって、桃子猫と遊びたい。

でもこれ以上関わると、

桃子猫の本性と目的が暴かれてしまう。

でも桃子猫と遊びたい。

ラッキースケベをまた味わいたい。

審査にはまだ数日の猶予がある。

それまでは、桃子猫と遊んでいられる。


『私もできます』


『桃子猫さんとしたいです』


即既読が付く。


『一緒にやりましょう!』


とりあえず約束はできた。

ついでにあのことを伝えよう。


『ゲームのホームページはもう見ましたか?』


『まだ見てないです』


『実は、私たちがスポーンした場所は、

未開放エリアだったみたいです』


『バグでスポーンしたみたいです』


『そうだったんですか!』


『これって私達、

奇跡みたいな出会いじゃないですか?』


柄にもなく臭いことを言ってしまった。

一方その頃。



『バタバタバタバタ』

「すっ…はぁ〜…すっ…はぁ〜…」

『ニャーン』



少し返信が遅いな。

とりあえずトーク欄を離れる。


「そうだ」


社長からの連絡を確認する。

先日のものから増えていない。

つまり今日は、

思いっきりゲームに興じることができる。

まあ期限付きで渡される仕事なので、

先約を放ることはどちらにしろないが。

桃子猫から返信が来る。


『そうかもしれませんね』


なんだか返事が素っ気ない。

嬉々として乗ってきそうな性格だと思ったのだが。

ウッキウキで伝えたこちらが恥ずかしくなる。

むしろその行動が私に合わないから、

鎌をかけたことがバレた?。

気を付けよう。

茶を濁すために世間話にシフトしよう。


『桃子猫さんはどこに住んでいますか?』


『私は貴州省の団地に住んでいます』


『そうなんですね』


貴州省、団地で検索する。

日本の中国団地の問題に阻まれながら、

それらしい建物を見つける。

築十何年の、

アグレッシブな若者が集う総合団地らしい。

少し、桃子猫が投資家ということに、

辻褄が合ってきた。

いやそう感じさせるために嘘を重ねただけだろう。

唐突に、桃子猫から写真が送られてきた。

どこか高層の建物の、窓からの写真だ。

端に見える家具から、私室の中だとわかる。

今撮って送ったとでも言いたいのだろうか。

そんな簡単には騙されない。

ちょ、ちょっと希望が見えたからって

揺らがないんだから…。

写真の時間帯は、今と同じ昼。

よく見ると地面に、猫の尻尾が写っている。

柄を見るに茶トラだろう。

桃子猫の証言と一致している。

この写真を見せることを前提とした、

お決まりの証言?。

そんなことを考えたら、

ゲームの桃子猫の言動も信じられなくなってくる。

もうこれ以上考えるのはよそう。

ただ桃子猫との会話を楽しむことにしよう。

返信が来る。


『ランさんはどこに住んでいますか?』


『私は埼玉に住んでいます』


『埼玉とはどこですか?』


『東京の北に位置しています』


『東京!いいですね、私もそこに行く予定です』


『旅行に来られるんですか?』


『そうです、ランさんに会いに行ってもいいですか?』


唐突にきた。

これは深読みせずに返答すべき?。


『是非来てください』


来なくても社交辞令で済む話だ。

気前よくいこう。


『ありがとうございます!必ず行きます!』


本当に来たらどうしよう。




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