第20話 バグの巡り合わせ





仮想通貨。

即座に仮想通貨、詐欺で検索する。

よくあるフィッシング詐欺や、

新しい仮想通貨を偽って買わされるらしい。

注意しておこう。

注意するくらいなら関わりを断てばいいのだが。

返信しよう。


『そうなんですね!』


『どうすればそれが出来ますか?』



いささか好奇心旺盛が過ぎただろうか。

鎌をかけていることがばれれば、

すぐに手を引かれかねない。

それはそれでいいことなのかもしれないが。

既読が付く。


『ビットプレジャーに登録してください』


『私がいつも利用している取引所です』


来た。

だがリンクなどは添付されない。

自分で検索して登録しろということか。

フィッシング詐欺の類はやらないらしい。


『登録します』


とりあえずは登録してみる。


「ふむ」


登録には免許証やマイナンバーカードを、

写真に取らなければならないらしい。


「どこだったっけなー」


無免許なのでマイナンバーカードを探す。

普段から使わないため、

どこに収納していたか忘れた。

桃子猫が待っていると考えると、手汗が出てくる。


「あった」


財布に入っていた。

身分証代わりに確かに入れていた。

サイトの指示通りに写真を撮る。

何回か失敗したが、撮れた。

次に進む。

後は確認事項だけだった。

今回だけはじっくり読み込む。

問題はなかったので登録を完了する。


『仮登録が完了したした。認証されるまで数日かかる場合が御座います』


「え?」


突然の頓挫。

この瞬間に登録ができないのなら、

桃子猫への報告は待たなければならない。

いやこれが仕様なら、桃子猫は想定しているはず。

ありのままを伝えてみよう。


『仮登録は完了しましたが、

認証されるまでに数日かかるようです』


既読が付く。


『喜ばしいことですが、残念です』


仮登録の完了を一旦喜んで、

数日間が空くことを残念がっているのだろうか。

解読するうちに、

涙を流す猫のスタンプが送られてきた。

似たようなスタンプを返す。

投資の件は一段落したのか、

メッセージが来なくなる。

この間に、別の人間にまた勧誘を…。


「グギギ…」


おもむろに、ボイスメッセージを再生する。


『あの、ゴメンなさい、日本語の文字、難しくてわからなイ』


いい声してる。

これだけを、

形のある思い出にしてもいいかもしれない。

とりあえずこちらも休むために動画サイトを開く。


「うっ」


見てしまった。

ドッペルフリーの攻略情報。

そのサムネイルを。

唾を無限に飲み込めば、

乾きゲージは減らないのか…。

いかんいかん。

バグの悪用はしない主義だ。

推しの会社の営業妨害になる。

それはそれとして、

ドッペルフリーのホームページを見る。


「あ」


リリース初期のゲームに、

多少のバグがあるのはいつもの事だが、

今回は面白いことが書いてあった。


『メンテナンスのお知らせ』

『未開放エリア、

岩石砂漠地帯での想定していないスポーン、

そのほか軽微なバグの報告を受け本日、

9月10日12:00(JST)より、

緊急メンテナンスを開始します』


後には謝罪文が続く。

珍しくバグに遭遇してないなと思ったら、

こんな形だったとは。

そう見れば、納得できることも幾つかある。

敵が強すぎた。

明らかに、

ゲーム開始数時間で相手していい格ではなかった。

橋と洞窟の要所で出会った二匹なんかは、

特にそうだ。

おそらくは、

オープンワールドを謳った手前、

見えない壁を設置するわけにもいかず、

強敵で蓋をする形となったのだろう。

環境が過酷すぎた面もある。

準備無しの初期装備で放り出されるのは、

ほぼ死と同義だろう。

逆に私たち以外に、

街にたどりつけた人物などいるのだろうか。


「おっ」


リロードしたら、更新情報がまた追加された。

ゲームを終了する方法を

プレイヤー間で共有する際、

セクハラが発生する点への考証。

ゲーム終了時のアバター消滅の速度の上昇。

まあ妥当なところだろう。

迅速な対応ができているので、

ある程度見越してのことだったのだろう。

人口低下に繋がらないといいが。

休憩はこれくらいにしよう。

いつの間にか桃子猫から2つ連絡が来ている。


『今日ゲームできますか?』


『私はできます』


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