第19話 二人の桃子猫
『こんにちは、桃子猫です』
『私は29歳で、投資家です』
『ランさんは何歳ですか?』
「うー…」
白寄りのグレーが黒寄りのグレーになった。
投資家。
胸の谷間をチラ見せしたアイコン。
いや、既読を付けてしまったし、
ここは一旦何も考えずに返信しよう。
『23歳です』
当たり障りのない返答。
個人情報はあまり出したくない。
既読が付いた。
一旦トーク欄を離れる。
『私より年下なんですね!』
『年上かと思いました』
年上。
年下。
桃子猫が年上で、私は年下。
29と23何だから、そりゃそうだ。
え?。
桃子猫が年上?。
ここでやっと、文字の意味が頭に伝播する。
てっきり同年代かそれ以下だと思っていた。
あの日本語が上手く話せない幼い雰囲気と、
アイコンの体つきを結びつけることが出来ない。
猫の桃子猫という存在に、
人の桃子猫が押しのけて入ってくる。
人の方が、かなり邪魔に思えてくる。
だがここは返信を先にする。
『私も年下かと思いました』
即既読が付く。
『私たち気が合うみたいですね』
「くぅー…」
どんどん黒に染まっていく。
あの桃子猫が。
まさかまさかの詐欺アカウント。
いや、まだ決めつけるのは早い。
被害を被るような、
詐欺の本題にはまだ突入していない。
いっその事、鎌をかけてみるか。
『私もいつか投資を初めてみたいです』
即既読が付く。
『本当ですか!』
『投資を始めるのなら早い方がいいです』
「はぁ…」
胸が苦しい。
こうなってくると、
タイミングを見て切らなければならない。
桃子猫との関係を。
それを想像しただけで、何故かとても胸が痛い。
何故なのか。
是非もない。
少なくとも、猫の桃子猫は結構好きだった。
そんな桃子猫と、こんな形で別れること。
それが嫌だ。
信じたくは無い。
スマホを見る。
桃子猫のメッセージに既読が付いてしまった。
何か返信しなくては。
『最近の流行りみたいなのあるじゃないですか、
そういう投資はどんなことをすればできるんです?』
性急に打ち込んでしまったので、
やや砕けた口調になってしまった。
既読はすぐについたが、なかなか返信が来ない。
一旦トーク欄を離れる。
『ボイスメッセージが送信されました』
見慣れない文言が流れてきた。
画像とかスタンプが送られてきた時の、
システムのメッセージなのだろうか。
少し間を空けて、トーク欄を見る。
そこには、おそらくは音を示す記号である波長と、
その長さが隣に刻まれていた。
6.7秒と。
再生ボタンを押す。
『あの、ゴメンなさい、日本語の文字、難しくてわからなイ』
桃子猫の声だ。
何度も聞いた声だ。
日本語の文字が難しい。
その割には丁寧な返事をしている。
私の言葉と、その返答に翻訳を通している?。
それなら丁寧さにも納得がいく。
書くことよりも話すことの方が得意だから、
それを言葉で伝えてきたのだろう。
なら私は、
翻訳に通しやすい文章に修正して応えなければ。
『最近の投資は、どんなものが流行していますか?』
こんなものか。
即既読が付く。
『最近は、仮想通貨が盛んですよ!』
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