第13話 共同作業

『火球』


火球。

二文字と簡素な属性アイコン、

ただそれだけの情報量から、

反射的に右上の✕を押してしまった。

ルビは振られていなかったので、

そのままかきゅうと読むのだろう。

試しに念じてみる。

手のひらを真上に向けて、腕を伸ばす。


(火球)


出ない。


「火球」

『ポッ』

「…」

「エ?」


一瞬ほのかに光った後、

陽炎のような歪みが手のひらの上で展開され続ける。

え?。

これだけ?。

恐る恐る左手の人差し指を陽炎に近づける。


「熱ッ」


確かに熱はある。

本当にこの程度?。

なんだか悲しくなり、上を向いた。

もう黄昏時のようだ。


「桃子猫さん」

「ん?」

「今夜は焼肉です」


とは言ったものの。

何から始めるか。


「焚き火の準備からしましょう」

「ン」


まず落ち葉を退ける。


「キャッ!?」

「どうしたんです!?」

「虫が…」

「ああ…」


都会暮らしなのだろうか。

田舎出身でかつグロ耐性キモ耐性がある私は、無言で手で払うだけに留まるが。


「桃子猫さんは、焚き木を集めといてください」

「タキギ?」

「えーと、薪、燃やすための枝とかです」

「わかった!」


桃子猫は張り切って探しだした。

落ち葉はそれほど積もっておらず、

すぐに地面に到達する。

地面が見えれば後は楽で、

足を突っ込んで葉を蹴り上げる作業となった。


「集めてきタ!」


両腕いっぱいに枝を抱え、桃子猫がやってきた。


「おー大漁ですね」

「エヘヘ」


中央に枝が置かれる。


「では桃子猫さんは、猪の皮を剥いでください」

「エト…わかっタ」


要領の分からない仕事を頼むようで悪いけど、

こちらにもやることがある。

まずは持ってきてもらった枝を組む。

そして手のひらを枝に向ける。


「火球」

『ポッ』


一瞬火が枝に触れたが、

それだけではやはり火は着かない。

ここらで少し試してみる。


「火球火球火球」

『ポポポッ』


壊れたライターみたいな火が、連続して出た。

枝に少し赤が籠る。

あともう少し。

火付け役に纏わせていた枯葉を、

赤に集中させる。


「火球火球火球火球火球…」

『フワッ』

「よし」


赤が火となった。

桃子猫の方を見る。

爪を用いて、

腹の皮を縦に切り裂いてくれているようだ。

思えば、武器を使いづらい獣人は、

こうやって爪や牙で戦うのが

想定されているのかもしれない。

それに反して、盾を持たせてしまっているが…。

いや、むしろ盾の腕輪は獣人用に作られた?。

有り得る話だが、今は置いておこう。


「桃子猫さん」

「ン?」

「手伝います」

「ン!」


巨猪明かりの傍によせ、解体する。

主に桃子猫が解体し、

私は火を見ながら細かいところをナイフで剥ぐ。

共同での作業というのは、

単純な仕事での落ち着きと、

一人では成せない程の捗りが相まって。


((この人といると落ち着く))


という気分になる。


夜の闇に、極まった光が宿る。

その光に、肉汁は煌々と照らされる。

顔面に馬鹿みたいに着いていた角が、

いい感じにナイフとフォークの役割を

果たしてくれている。

桃子猫も、私が焼いた肉を

両手で挟んで嬉しそうに食べている。

牡丹肉、思ったよりいける。




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