第14話 変態回避

森に差し込む光が多くなる。

太陽は頂点に達しかけていた。

だというのに、未だ森から出られる気配はない。

相当広い森か、あるいは何者かに惑わされていることを疑うだろう。

この音を聞かなければ。


「何か聞こえません?」

「ウン、さっきカラ」


少し足早に進む。

少し先に、木の密度が急激に下がる空間がある。

抜けた。

直線上に開け、砂利が敷き詰められた空間。

川だ。


「おおー」


砂漠の濁流を数えなかったら、

これが初の川との邂逅となる。

耳心地のいい音が流れている。


「オー」


桃子猫は先に駆け出し、足を水につけた。

楽しそうに足をばたつかせている。

それを横目に見ながら、しゃがんで水をすくう。

透明度、流動性共に、現実と遜色ない。

飲む。

うん。

川の水って感じ。


『ペロペロ』

「アッププ」


桃子猫は鼻先に水がかかるのか、

飲みずらそうにしている。


『クイクイ』


私の服の袖を、両手で引く。


「…はい」


水を両手ですくい、桃子猫の前に差し出す。


「アリガト」

『ペロペロ』

「ふ…」


だめだ。

昨日のことを意識してしまう。


『ペロっ』


歯が見えた。

手の中の水が無くなる。


「モット」

「ッ」


何も言えずに、水をすくう。

手の隙間から水は垂れ、

長時間飲むことは出来ない。

すくう時に隙間時間が生じる。

その時間を少なくするために、

口と手の距離、手と川の距離は短くなる。

結果、桃子猫は半分跪く形となる。


『ペロペロ』


もうダメかもしれない。

VRMMOをしただけで、

レパートリーがふんだんに開拓されてしまった。

目覚めた頃には、

猫を直視出来なくなるかもしれない。


「フゥ」

「あ…もういい?」

「ウン」


よかった。

これで街中を普通に歩ける。

川から離れる。


「丁度いいので、休憩にしましょう」

「ウン」


腰紐を解きスカートを外す。

森を歩いたので川に少し漬けて洗う。


「火球」


そして少し炙って肉を復活させる。


「どうぞ」

「ウホー」


桃子猫は夢中で食べている。

長く歩いたんだからそりゃそうだ。

私だってむしゃぶりつく。

上手い。

硬い肉の咀嚼音に溢れる。

そんな時の来客なんて。

気づかないに決まっている。


『バシャ』


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