第12話 致命は体に染み付いている




「一体何がーーー」

『プヒッ』


居た。

すぐ側に、角のやたら多い、

猪とバビルサを足して二で割らなかったような、

巨体の生物が。

待ち伏せされていたのは、こちらのようだ。


『ブルるるる』


地面を足で擦る、何かの予備動作。

私は次にくる行動を、知っている。

昔のゲームでよく見た。

今度こそ間違いが起きないよう、

桃子猫の前に立とうとした。

だが桃子猫は私の行動を予測し、

私の股を通り抜けて、私の前に立った。


『ブルッ』


まただ。

また守られる。

だが今度は目を逸らさない。

見ておきたいものがある。


『バチュッ!』


火球の時にも聞いた、不思議な音。

その音の原因を、この目に焼き付けた。

盾の腕輪が展開する時の、

高速の膨張が相手の攻撃の勢いを殺し、

逸らしている。

パリィ。

特定のゲームに存在する、

成功すれば相手の攻撃をいなせる盾の技術。

現象はそれに酷似している。

ともなれば。

巨猪の方を見る。

攻撃せよと言わんばかりに、よろめいている。

すぐさま抜刀し、

目に見える弱点である目にナイフを突き立てる。


『ブピィィィィ!』


巨猪は仰け反り、悶えている。

これが一連のパターンだとしたら。


「桃子猫さん」

「ん?」

「右腕、後ろに下げて貰えませんか?」

「エ?」


やはり提案が唐突過ぎたのか、

桃子猫は固まっている。

時間が無いので、私が桃子猫の腕を背中に運ぶ。


「エー?」


盾がどんどん縮み、ただの腕輪となる。


「桃子猫さん、前」

「ン?」


巨猪はまた突進の構えをとる。


「あわわ…」

『バチュッ!』


慌てて構えた盾が突進に間に合い、

桃子猫はまた巨体をパリィする。

すかさず巨猪の目を一突きする。

これで大体わかった。

この盾の腕輪は、

装備者と敵の間に挟まれた時、盾を展開する。

その展開にパリィの判定があるのか、

それがただ勢いが強すぎるからかそのどちらかで、

敵の攻撃を弾く。

そして敵から180℃遠ざけると、

任意で縮めることができる。

巨猪はよろめきながら立ち上がり、

突進の予備動作をとる。


「桃子猫さんー」


言う前に縮めてくれていた。


『バチュッ!』


ナイフを敵の眼球にねじ込む。

二人になってから三度目の会敵、初の正面戦闘。

それに、勝利した。


『ブエエエエぇぇぇぇ……』


巨猪は力尽きる。

その肉体は霧散せず、金も落とさない。

というか、いい感じに強そうな敵を倒したのに、

レベルが上がった気もしない。


『顕現しました』

「うわぁ!」


いきなりウィンドウが出てきたので、

驚いてしまう。


「トウしたの!?」

「はは、いやあなんでも」


とりあえず『顕現しました』を押す。

文字は左に流れ消えていき、

新たな文字が右から来る。


『火球』


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