第4話 運命の邂逅

鉄砲水。


轟音が最高潮に達する前に、

ひび割れた地面から離れる。

泥の雪崩が、足首をかすめた。

臨場感のあるそれは、

このゲームの質を雄々しく表していた。

死にかけた時って、声出せないんだなぁ…。

川上へ歩く。

自然の小路が形成されている川下へは、

あれを見てからでは行く気にならなかった。

やっとこさ身をぼえのない岩を見た、

そんな時だった。


「growwwwww!」

「kiiiiiiiii!」


モンスターが二体、争っている。

片方が先程の大きな陸ガニ。

もう片方はよく見るトレントのような、木の怪物。

二体とも水を得た魚のように、興奮して戦っている。久々の雨だからだろうか。

モンスターの気配がなかったのに突然始まったので、条件下で発生する稀なイベントかもしれない。

しばらく様子を観察しよう。

カニは大きなハサミを振りかざし、

巻き付く蔓を断ちながらトレントに攻撃している。カニがやや優勢といったところか。


「お」


大きく傷つけられたトレントが、

蔓を大量に伸ばし始めた。

HP現象による大技炸裂といったところか。

巻きついた蔓がほのかに光り始め、

トレントに断続的に吸収される。

トレントの傷がみるみる修復されていく。

HP吸収の効果だろう。

それに応じるかのように、カニは体を震わせる。

何かの予備動作のように。

そう察した時には、行動は既に終わっていた。

残ったのは、

両手のハサミを先程よりも巨大にしたカニと、

上下に別れたトレントの亡骸と、脱皮した後の殻。

状況証拠から見るに、

カニは即座に脱皮しハサミを肥大化、

抜け殻に蔓を絡ませてトレントに瞬時に肉薄し、

両断。

凄いものを見てしまった…。

そして収穫になった。

HP減少によって発動される必殺技の存在。

そして二匹の必殺技。

カニのやつは見てから避けられるか分からないが、

予備動作はあるので何か対策はあるのだろう。

トレントの亡骸に近づく。

両断されたそれらは血を流さず、

だがしかし端々をタコのようにうねらせていた。

出血がないのでただ傷つけるだけでは倒せず、

弱点を叩かなければならない。

そういう倒し方なのかもしれない。

少なくとも、地球の常識とは外れた生物だ。

そんなことを考えても、目的は一向に達成されない。

普通モンスターを倒したら、

体はすぐに消滅しお金やドロップ品が出てくる。

はず…。

出ない。

もしかしてそこもリアル志向?。

ガチの剥ぎ取りですか?。

試みてもいいが、

現状剥ぎ取りに特化したナイフなどは持ってない。

仕方なく、抱えられるくらいの太さの枝を、

抱えるだけにする。

水を吸っているせいかすごく重い。

トレントの亡骸を後にする。

雨は止まず、徐々に暗くなってきた。

徐々に肌寒くなる。

砂漠の様相も変わってきた。

平坦だった地面が、

隆起と陥没を散らした荒々しい地面になった。

川下よりは歩きやすく、水の危険もない。


「ん?」


極端に隆起した地面を、

不思議に思い一瞥していたら、横穴を見つけた。

横穴は暗く、先がどれ程続いているか分からない。中に水は侵入していないようだ。

これは丁度いい。

中に入り、雨宿りと休憩をする。

服を脱いで絞り、水気を抜く。

それでもまだ寒い。

木を持ってはいるが、濡れているし火種もない。

せいぜい枕にするくらいだ。

食料も見つからなかったので、

仕方なく薬草を食べる。

…。

死ぬのか?。

人は極度の寒さに達した時、

発汗するほどの暑さを感じることがあると聞いた。このゲームにそんな機能は無い。

だからこそ、ゆっくりと体が冷えるのがわかる。

死んだらやっぱり、初期のリスポーン地点で復活?。だとしたらかったるいな。

セーブを忘れて進行度を戻すのが、一番嫌いだ。

それで積んでしまったゲームも幾つかある。

このゲームは、そんなことでは辞めたくない。

辞めなければいい話なのだが。

月は隠れ、洞窟は完全な暗黒になっている。

出そうな雰囲気だ。


『ヒタ』


…聞こえ違いかもしれない。


『ヒタ…』


聞こえ違いじゃなかった。


『ヒタ…ヒタ』


ホラー演出?。

それとも死亡時のバグ?。

後で運営に報告しよう。


『ヒタ…ヒタ…ヒタ…』


音がどんどん大きくなる。

洞窟の奥から近づいてきている。

惜しむとすれば、この木。

実は超絶レアアイテムで、

これから私の最強無双が始まるかもとか期待してた。無双ゲーはあまり好きじゃないけど。


『ヒタ…』


願わくばこの木が、戻る前に消滅しないことを祈る。全てを諦め目を閉じようとした時。

洞窟内に月光が差し込んだ。

乾いてひび割れた岩壁と、

生物がはっきりと目に入る。

みすぼらしい装備を着た、二足歩行の猫だ


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