第3話 再現度高杉


「うっ…」


先程の暗黒のせいで、明るさに目が慣れない。

これが激しい発光なら、納得だ。

徐々に目が慣れてくると、視界は青に覆われた。

起き上がる。

砂漠だ。

おそらくは岩石砂漠とい名前の、

へーこいういうのも砂漠って言うんだ〜、

ってかんじの砂漠。

岩が立ち並び石がばらまかれた、平坦で硬い地面。石一つ一つを配置したと考えると、

自然と脱帽してしまう。

脱帽ついでに装備を確認。

手には麻の帽子。

上下共に粗末な服と、みすぼらしいナイフが一本。

いかにも初期装備といった感じだ。

持ち物を見てみよう。

…。

ウィンドウを開く方法が分からない。

チュートリアルがないのは昨今では珍しいが、ウィンドウの出し方すら分からないのはこれが初だ。

ゲーマーの本領が試される。


『パン』


まず両手を叩く。

まあ出ないだろう。

音が出てしまう手法なら、

街の雰囲気が台無しになってしまう。

次に足をタップする。

出ない。

これで出たら、

イライラしてそうな人が多発することになる。

様々なポーズを試すも、やはり出ない。

うさぎ跳びをした瞬間、

背面の腰に乾いた何かがあることに気づく。

ベルトに挟まれた、薬草的な草だった。

この薬草から、色々なことが分かる。

おそらくこれは、

スポーン時に支給される消費型の回復アイテム。

腰のベルトに挟まれているのは、

このゲームにインベントリがないことの示唆。

そこから、ウィンドウを開く手段はない可能性。

改めて、身体中をまさぐってみる。


「ん?」


胸にしこりがある。

下着が脱げない仕様なので布の上からになるが、

明らかに少しだけ盛り上がっている。

感触は第三の乳首。

押してみる。


『ゲームを終了しますか?(はい)(いいえ)』


いきなりこのウィンドウが出てくるのだから驚いた。やはりウィンドウは徹底的に排除する方針のようだ。リアル志向じゃん?。

とまあ確認はこれくらいにして。

石を拾い上げてデバッグしたい衝動を抑えながら、街道を探すことにする。

平坦な岩石砂漠には、人の気配がない。

だがここにスポーンしたということは、

それなりに人の往来が想定されている地域なはず。道くらいはあるでしょ。

適当に歩き出す。

踏みしめる地面が硬い。

触覚は完全に再現されている。

まるで本当に別の世界に来たみたいだ。


「お」


遠くに何かの影が見える。

蜃気楼で上手く見えないが、きっとモンスターだ。あるいは蜃気楼が見せる幻。

近づくと、やはり影はモンスターだった。

地球の陸ガニを百倍ほど大きくした、

シンプル且つ雄々しいフォルム。

こちらの身長をゆうに超え、勝機をもいでくる。

戦わない方がいいだろう。

小さくて粘性のやつとか、

小さい人型なら序盤の敵と判断できるが、あれは違う。

中ボス的な何かなのだろう。

身を屈み、後ろに後ずさる。

一定距離離れたところで、走る。


「はっはっひひひひ」


なんだか楽しくなってきた。

あれに挑戦して勝てば、

それこそ尊敬されるソロプレイヤーになれただろう。でも何故か、いや往々にして、

本能をもって行動するのが楽しいものなのだろう。

一通り走って、疲れる。

喉も乾く。変なところまで完全再現。

だがそれが無性に心地いい。

何時でも止められる、本体に害のない不快感だからこそ、 不思議と楽しめる。

懸念すべきは、このゲームのシステム。

もしかして、腹へりとか乾きゲージ設定されてる?。

このゲームならやりかねない。

そう考えると、少しお腹も空いてきた。

ハードコアなゲームなのに、

薬草が装備させられているのは、

そういう意味があったのか?。

となると、一気にサバイバル味が増してくる。

まず水の確保。

そして食料。

体温ゲージもあるだろうから、

夜のための火の確保。

やることは山積みだ。

全てを無視して走り抜けてもいいかもしれないが、失敗すればまた振り出しからだ。

慎重に考証しよう。

砂漠なのだから、やはり水は少ないだろう。

摂取できるのはやはり、生物か多肉植物からか…。


「ん?」


地面に違和感。

亀裂が走っている。

干ばつなどで見るような亀裂模様が、

大きく直線的に広がっている。

この地面に水があったという証拠。

つまり以前ここには、川があった。

川上か川下を目指せば、人里があるかもしれない。

下る方が楽なので川下に行こう。


平坦な地面とは打って変わって、

山や谷や崖が増えてきた。

雲行きが怪しくなってきたと同時に、

空模様も不穏になる。


『ポトッ』

「あ」


手の甲に水滴が落ちる。

雫は手を伝って地面に落ちた。

現実と似た挙動をする水滴に、喉を鳴らす。


「!」


唾が喉を通る感覚も現実に近かった。

一体どこまで再現されてんの?。

再度唾を飲み込む。

と同時に、大量の水滴が背中を打ちつける。

豪雨だ。

雨を飲もうとする小学生みたいに、

上を向いて口を開ける。

涎が喉を通るのなら、

こうしていれば水分が補給できるはず。

走りもしたし多めに飲んでおこう。


『……』


何か、振動と重低音が遠くからこちらに伝わる。

それは徐々に大きくなる。


『ゴゴゴゴ…』


そういえば昔テレビで見たことある。

普段雨の降っていない砂漠などの地域では。

地面が乾いて固まっているので。

雨が降っても地面には染み込まず。

そのまま下の方に流れていく。

砂漠では、

それによる溺死が上位に位置する死因であると。


鉄砲水。


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