第2話 バレへんやろ



「ふぅ…」



とりあえずゲームの使用感の是正案と、

バグ報告をまとめて社長に送る。

何とも先行きが不安になるゲームだった。

いや逆に考えれば、

私が触ってあの程度で済んだ方がマシなのかもしれない。

最近はオープンベータという名の体験版を頒布するため、 アルファ版の時点で作り込む会社が多い。

ゲーム戦国時代の昨今、

ローンチまでで勝負が決するのが常だ。

それを鑑みれば、

VR初のオープンワールドMMORPGの

『ドッペルフリー』は成功した部類と言える。

もう一度PVと先行プレイ映像を見よう。


「ふぉぉぉ」


やはり既存のゲームとは一線を画すリアリティ、

物理演算がある。

武器のみならず、

その辺の棒切れや石ころでも戦える自由度。

そして何よりマップの作成に、

AIが関与していないときた。

先程のデバッグの後だと、

よりその苦労が伝わってきて目頭が熱くなる。

推しているインディーゲーム会社から

出ているのだからなおのことだ。

無料と言わず二万ほど払わせて欲しい。

いや三万!。

もう一声!。

20時だ。

インストールは終わったが、

データ容量がもう満杯になってしまった。

積みゲーを消すか消さまいか。

消そう。

一人好きな子攻略出来ればそれでいいし、

表のラスボスまでで十分楽しんだし。

何より重要なのは『ドッペルフリー』だし。

今生の別れじゃなくて、

またインストールすればできるし。

アンインストールに手をかける。

さらば!。


『カチッ』

「ふぅ…」


いやー苦い選択だった。

これで少し余裕ができた。

早急なパッチが来てもすぐに対応できる。

武者震いが止まらない。

事前情報はPV以外触れなかったんだ。

オープンベータも、そのプレイ映像だって見なかった。

妄想が止まらない。

時間が来るまで妄想していよう…。


「はっ!」


妄想してたら寝てしまっていた。

確かソロでレイドボスを蹂躙していたはず。

じゃなくて。

スマホの時計は午前1時30分を差している。


「ほっ…」

『グゥ〜』


ほっとしたら腹の虫が鳴った。

妄想でねじ伏せても、やはり無理があった。

袋麺を食べればちょうど間に合う時間だ。

リリース日だし奮発しよう。

今日の晩はロ王がいいな。


動画を見ながら食べていたら、

時間ギリギリになってしまった。

リリースまであと2分。

VRヘッドセットを装着し、横になる。

元々この装置は、

良質な睡眠と夢を誘導する装置だったが、

夢を誘導する機能を改良し旧来のVRと融合した結果、完壁なVRゲームとして誕生した。

睡眠時間にゲームができ、

さらに睡眠より良質な休息が得られる、

人類のQOLを底上げする画期的な装置だった。

周辺機器を含む必要なデバイスで、

合計百万円以上するのがネックだが。

ヘッドセットに付いているボタンで、

旧来の画面を操作しゲームを選択する。


『このゲームはまだリリースされていません』

『ポチッ』

『このゲームはまだリリースされていません』

『ポチッ』


ロードが始まった。

眠くなる。


いよいよだ。

次に目覚めるのは、明日の昼だろうか、夜だろうか。


徐々に意識が覚醒する。

暗黒が目に入る。

このVRゲームをやる人間は寝ながらやるので、

こうやって仰向けでゲームが始まることが殆どだ。

ただこれでは暗すぎて、

目を開けているか閉じているかも分からない。

起き上がり、辺りを見回す。

背後から淡い光。

ゲームのホーム画面のウィンドウだ。

スタートを押す。

ムービーや導入無しで、キャラメイクが始まる。

自分の姿も見えない程暗いのはそういう事か。

なかなかオシャレじゃん?。

どうしようか。

最近までやっていた剣と魔法の剣闘士だとか、

FPSだとかはキャラメイクが無かったので、

久しぶりの感覚に戸惑う。

じっくりこってりキャラを作りたいところだが、

没入感を上げるために自分に似せよう。

幸い認識できるみたいだし。

『認識』を押す。

…。

私ってこんな顔?。

パーツの変更に移る。

「あちゃー…」

パラメーターで弄れるんじゃなくて、

完全なパーツの選択式だ。

つまり認識された後、

一番近い形がそれぞれ選ばれたわけだ。

ならちょっとくらい弄っても…バレへんやろ。


「…よし」


大目に見てもこれくらいだろう。

おじいちゃんおばあちゃんの、

記憶の中の孫くらいの美化だ。

完了を押す。

何か注意書きのようなウィンドウが出る。


『ゲーム開始時にいずれかの地点に、

ランダムにスポーンします。

「草原地帯」「森林地帯」「砂漠地帯」

心の準備が出来次第【はい】を押してください』


美しい日本語と聞きなれない文言に心躍る。

ランダムにスポーンということは、

導線はないってこと?。

ハードコアじゃん?。

はいを押す。

ウィンドウが消え、完全な暗黒となる。

かと思いきやまたウィンドウが出る。


『地面に寝転んでください』

「お、おう…」

『激しい発光があります。目を瞑ってお待ちください』

「ん…」


なんだか出鼻をくじかれた気分だ。

…。

長い。

暇だ。

予定を立てよう。

まあまずは街に行く。

RPGだし街くらいはあるだろう。

そこを拠点にレベルを上げていって、

孤高のソロプレイヤーとして名を馳せて…。

ふと、瞼が暖かくなる。

それと同時に、空気の温もりが肌に触れる。

スポーンしたのだろうか。

目を開ける。


「うっ…」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る