VRMMOで出会ったお姉様なら私の隣で寝てる

甘頃

第1話 超新星バグ発


「お…ふぁ」


スマホの時計は午前8時を示している。

パソコンの画面では、

ダウンロードまであと12時間と表示されている。

明日の午前2時に公開される新しいVRゲーム


『ドッペルフリー』。


最新の大容量通信をもってしても半日以上かかるとは、なかなかに唸らせてくれる。

さて…もう朝も遅いし。

寝るか。

冴木乱子は夜型だった。



『ppppppp』

「ん…」


着信音で目が覚める。

社長からだ。


「もしもし」

「…その声の調子だと、

乱子ちゃんまた寝てたでしょ」

「うん」

「いやうんじゃなくて…いつも言ってるでしょ?

社会人なんだから夜に寝なさいって」

「わかってるぅ…アレで寝てるから大丈夫」

「アレは寝てる内に入らない!」

「ふぁい」

「もう、24にもなる乙女がー…

ちゃんとした生活を送らないとー…」

「あい、あい…」

「あと、例のアルファ版送っといたから、

ちゃんと確認してよね」

「あい…」

「じゃ、失礼しました」


そう言って社長は通話を切った。

耳から離したスマホは17時を示している。

社長とは昔馴染みだった。

その縁でゲームのテストプレイヤーとして誘われた結果、 デバッグの才能を発揮しお抱えのデバッガーとなった。

要はバグらせ体質ということだ。

パソコンをスリープから起こす。

メールに送付されたファイルを解凍し、

アプリを起動する。

やりたいゲームの前に、

別のゲームのデバッグするのも難儀なことだが、

ハマっている最中よりはマシだ。


「ほー」


テクスチャの貼られていない白い構造物が、

青空の下で乱立している。

メールを見る。

このゲームはパルクールを駆使する

サイバーパンクFPSのようだ。

確かに壁走りや二段ジャンプ、

アビリティにジェットパックやフックがある。

VRでやらないのも納得の画面酔いだ。

遠くで走り回っているボットを、

装備していたアサルトライフルで撃つ。

銃の仕様はリアル志向らしく、

サイトを覗いて射撃しても弾が拡散する。

適正範囲外みたいだ。

ここまでは、スポーン地点から3メートル内の出来事。

この私がここから大きく動いた瞬間

このゲームがどうなるか見ものだ。

大きく跳躍しビルらしき構造物の側面を走る。

ここまでは何ともない。

ボットの後ろを追いかけて射撃する。

壁走り中だとキャラの片手が塞がってしまうせいか、射撃精度が著しく落ちる。

近接格闘もあるし、それも試してみよう。

幸いボットは追いつける速度だ。

格闘が当たる距離まで詰める。

FPSゲームでは基本、

格闘は二発で相手を倒す。

銃弾がかすった程度でその数は変わらないだろう。

格闘ボタンを連続で2回押す。

一発目が当たった瞬間に、

ボットはぐったりとする。

まずい。

かすっただけで数が変わっていた。

一発八割といったところだったのだろう。

そんなことを考えているうちに、

二発目がボットに命中する。

中途半端な一発目の衝撃を二発目で加速させ、ボットは関節を離れさせながら構造物に激突する。

そして音もなく崩壊し、

超新星爆発のようにテクスチャを空間に広げ始めた。


「うおぉぉ来たぁぁ!」


処理が重くなり、ゲームが強制終了する。


「ふぅ…」



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