第7話

 共に旅を始めてから3日間、リューヤは魔法面において天才であると、何度も思い知らされた。

 そもそも、俺が使える魔法は風属性と無属性のみなため、当然魔属性について詳しく教えることはできない。

 そもそも、情報量の少なさからいうと今の世の中に魔属性が使える人がいるかどうかすらも怪しいところだ。

 

 そんな感じで、同じ属性の師匠というものがリューヤにはいなかったのにも関わらず、リューヤは自身の魔力の性質を正確に把握し、どんどんと新しい魔法を習得していく。


 そんな傍で、俺はリュートに剣も教えていた。

 こちらの方も、魔法と同じとまでは言えないが適性がある。というか、元々リュートは体が出来上がっていたため、それのおかげだろう。


 それから、リュートとは今後の旅の方針について話した。

 リュートの方は特殊な事情があるらしく、旅先で情報を集めながら、適宜考えていくという方針らしい。

 俺の方も世界を見てまわりたい、という程度のものであるため、とりあえずは近くにある中立都市『ギーヤ』に向かうことになった。

 そこで冒険者となり、それで生計を立てながら旅をしていこう、という結論に落ち着いた。


「ところでキリ、お前はなんでこんな山奥で今まで過ごしてきたんだ?」


 と、森の中を歩いているとリュートに尋ねられた。

 特に隠すべき事情でもないし、俺は話すことにした。


「俺さ、生まれたての頃に両親に捨てられたらしくてな?そっから、拾ってくれたらしいじいちゃんと二人暮らしで暮らしてたってわけさ。まあ、じいちゃんも死んじゃったんだけどなー」


「……なんかすまん」


「いいよ別に。そこはもうきっちりと切り替えたから」


「そっか」


 実際の話本当に未練はなかったので、俺はなんともない、というように言う。

 今度はこっちから尋ねてみるか。


「じゃあさ、リュートはなんであんなのに追われてたの?」


「…悪い。それはまだ言えない」


「まだ」と言うことは、このままいけば教えてくれるのだろうか。元々そこまでの興味もなかったため、俺は気長に待つことにした。


 隠してることがあるのもお互い様だしな。









 リュートとともにたびを始めて5日。最初の目的地であった中立都市『ギーヤ』に俺たちは到着した。


 高い城壁に囲まれた大都市は、ものすごい迫力だった。


 早速街の中に入り、宿をとった俺たちには、重大な問題が待ち受けていた。




 金がなくなったのだ。




 このままだと、明日からは野宿となってしまうことに気づいた俺たちは、早速稼ぎにいくことにした。

 じいちゃんの話の通りだと、『冒険者協会』というところに行けば、『冒険者』と呼ばれるような職業になり、狩った魔物の素材を買い取ってくれるらしい。

 道中にもせっせと雑魚敵の素材を集めてきた俺たちは、それを手に冒険者になろうとしていた。


 しかし、ここでもまたもや重大な問題が出てきてしまった。


 どうやら、冒険者である、という証明書である『冒険者カード』は、赤の他人の悪用を防ぐために、登録時に魔力を登録しなければならないらしい。

 冒険者協会はどこの国家にも属していないため、本来は情報の漏洩を心配することもなく登録できるのだが、俺たちにとってはこれが障害となってしまう。


 なぜなら、リュートの魔力がバレてしまうのだ。

 俺たちは、リュートの魔力を極力隠していくために、普段は俺が表立って戦い、リュートは影に徹する、という方針で行こうとしていた。しかし、ここでリュートの魔力が『魔属性』である、ということを知られてしまった日には、この計画も水の泡である。


 そこで、冒険者としての登録は俺が1人で行うことにした。

 リュートも目立ちたくないのは本心なため、多少残念がりながらも承諾してくれた。

 俺はリュートを待たせて、登録を行いにいく。


 冒険者協会の建物内に入ると、そこは活気に満ち溢れていた。

 食堂のような区画では、多くの人間たちが酒を飲み交わし、冒険談義に花を咲かせている。

 依頼書が貼り付けてある掲示板の前にも多くの冒険者たちが集まり、依頼を選んでいる。


 そんな喧騒の中を抜け、俺は受付へと向かっていく。

 途中酔っ払った冒険者が絡んできたが、地面に叩きつけ気絶させておいた。

 目が覚めた頃には、俺のことなんてとっくに忘れていることだろう。


 受付に着くと、窓口にて待機していた女性が対応をしてくれた、


「ご本日は、どう言ったご用件でしょうか?」


「キリという。新しく冒険者登録をしたいんだが…」


「はい!新規登録ですね。登録を行なっていただく前に、いくつか説明をさせていただきます」


 そういうと、元気な受付嬢が説明を始めた。


 冒険者は5つのランクに区分されており、上からSランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、といった具合らしい。新人である俺は最下層のDランクからスタートし、依頼を受けていって、それが一定数に達すると、上のランクへと上がるための試験を受けられるらしい。

 一般的なところではCランクで初心者卒業、Bランクで一人前、といった感覚のようだ。

「ちなみに、さっきキリさんが投げ飛ばされた方はBランクですねー」と、ニコニコしながら受付嬢は付け加えた。


 また、冒険者としての禁止事項としては、正当防衛を除く冒険者間の暴力や、他の冒険者の狩った獲物の横取りなどがあるらしい。

 実際の話、行き過ぎた場合は資格の剥奪もあるらしいが、よほどのことでない限りは協会側も無干渉らしい。


「説明はこれくらいですね。それではキリさんの魔力をこのカードに登録していただくことで、キリさんも冒険者の仲間入りです」


「ああ」


 俺は受付嬢から差し出されたカードに向けて自身の魔力を込める。

 すると、カードが光り、色が白色から緑色になる。どうやらこれがDランクの色のようだ。

 そこから俺の情報が記され、カードが手渡された。


「ありがとう」


 といい、俺が去ろうとすると、あ、と思い出したかのように受付嬢が教えてくれた。


「キリさん、忘れていましたけど、カードを無くしてしまったりした場合の再発行にはお金が必要ですからね。あとは、もちろんしないと思いますがカードの偽造は禁止です」


「わかりました」


 そんなこんなで、晴れて俺も冒険者となった。













 ……あ、素材売るの忘れてた。

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