第6話
こいつの名前はリューヤというらしい。
あのあと、こいつと話してみた結果として分かったことだが、こいつはこの世界の常識が欠如しているらしい。俺を引き込んだのは、案内役としての目的もあったみたいだ。
しかし、俺も世間とは切り離された空間にいたため、そういうことには役に立たないと教えると、膝から崩れ落ちていた。
そんなこともあったが、流石に契約魔法までも知らないとなると、話は変わってきてしまう。
契約魔法とはその名の通りの魔法である。互いに内容を設定し、それに片方が逆らった瞬間に契約者の方に通達が行く。また逆らったものは事前に設定されていた罰を受ける、というものだ。
魔法を嗜むものなら誰もが使える、と言ったレベルのもので、難易度もさほど高くない。こいつには大量の魔力が宿っていたために使えると思っていたが……どうやら本当に使えないらしい。
ますます何者か気になってくるな。
まあいい。先ほども言った通りに大した難易度でもないので、この場で教えることにした。
と思ったのだが……どうやらこいつは魔法の基礎から知らないらしい。
ということで、俺のスパルタ教育にて、こいつに叩き込むことにした。
「リューヤ、そもそも魔法っていうものが何かわかるか?」
「えぇと……マジカルファイア!!、的な?」
「なんだそれ……まぁいいか、魔法っていうのはすなわち──魔力の具現化だ。」
「へぇ」
「まず、お前の体にある魔力の存在を検知し、動かす所から始めようか。……お前の中にある魔力はわかるか?」
「えぇと……これか?」
そうリューヤが言った途端、魔力がガクン、と動いた。
これは……案外早く終わりそうだな。
思わない所から湧いた才能に思わず俺の口角は釣り上がる。
そんなことを俺が考えている隙に、リューヤの中の魔力がどんどんとスムーズになっていく。
「もう魔力の操作はできるみたいだな」
「おう」
「多少荒削りだが、そこは旅の途中で教えていってやるよ。とりあえず、お前の魔力の性質は魔属性みたいだな」
珍しいな。家の本でも魔属性に関する書籍だけは極端に少なかったのに。
「なんでわかるんだ?」
「まぁ、色々あってな…俺の目は特別性なのさ」
「そっか。…ところで、魔法は魔力の具現化なんだろ?そしたら契約魔法つうのは俺には無理ってことか?聞く限りは魔属性って感じでもなさそうだし」
「いいところに目をつけたな。確かにお前の言っているように、お前に火属性や風属性なんかは使えない……だが、契約魔法に関しては別さ。なんだってこれは無属性だからな」
「無属性ってなんだ?」
「その名の通り、属性の定まらない魔法だな。詳しくはまだ解明されていないらしいがな。とりあえず、お前にも契約魔法は使えるってことさ」
そこから俺は、リューヤに契約魔法を教えた。
まあ、簡単な魔法だったため、リューヤが苦戦することはなかったが。
それから俺たちは契約魔法を結んだ。
内容は簡単で、こんな感じだ。
・意図的に互いを害することはしてはならない。これに違反した瞬間に、そのものは一時的に魔力を失う。
「よし、こんな感じだな!」
「……」
リューヤは、契約内容なんかよりも魔法に夢中らしく、ずっと魔力を操作している。
「あ、あとリューヤ」
「なんだ?」
「お前が魔属性だっていうことは、隠しておいた方がいいぞ」
「なんでだ?」
「おそらく魔属性は希少だからな。リューヤが持っていると知られたら、面倒なことになるかもしれない」
「わかった」
▼
「サトウさんとカグラさんが……行方不明になりました」
初の訓練を受けた次の日、私たち全員を集めて、女性はそういった。
目元には涙を浮かべ、しくしくと泣いている。
私は突然の出来事に、目の前が真っ暗になった。
クラスのみんなを見渡してみたところ、ショックを受けてはいるものの、悲しみに暮れる、というような人はいないらしい。
あの2人にはクラス内に特に親しい人もいなかったようだし、そうなってしまうのだろうか。
女性が言うには、まだ遠くにはいっていないだろうため、捜索を続けているらしい。
「すみません…私のせいで」
悲壮感たっぷりに謝ってきた女性を責められるものなどはいなかった。
「別にいいさ。あんな奴らは、これからのステージには必要ない。あんたもそんなことより、俺たちの強化を念頭におけ」
と、一歩前に出たリュウジン君が言った。
…なんで?なんでそんなに酷いことが平気で言えるの?みんなも、なんで頷いてるの?
それから解散が告げられ、束の間の自由時間が与えられた。
部屋に1人で帰った私は、ベッドに飛び込んだ。
みんな変わってしまった。このわずかな二日間で、どうやったらあんな態度が取れるようになるんだろう。
…私がおかしいの?
いや、サトウくんがただのクラスメートだったとしてもああはなっていないはずだ。
……私は、サトウくんのことが好きだった。
初めは関わりを持つこともなく、ただクラスの少し落ち着いた子、と言うような印象だった。
確かに好感は持っていたが、好きかと聞かれると、それは違っただろう。
そんな状況が変わったのは、一つの出来事がきっかけだった。
▼
大変恥ずかしいことだが、私は自分の容姿が優れていることを自覚している。
容姿というのは生まれる際に選ぶことができないものであるし、容姿によって性格が変わることなどはないため、人間関係に容姿を持ち込まないようにはしているが。
さて、そんな私は、1人で出掛けていると、しょっちゅうナンパをされてしまうため、お出かけのほとんどは、小学校からの大親友である
雫自身もとんでもない美人なので、1人ではなるべく出掛けたくないそう。
最も、柔道を極めているため、大体の男は泣きながら去っていくようだが。
その日も、2人で服を買いに行こうと言って、ショッピングモールに行った。
お互い、目的で合った商品を手に入れることができ、ルンルンとした気分で帰ろうとしていた。
「私、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
そう言って雫がいなくなった時だった。
まるで、私が1人になるタイミングを待っていたかのように、男二人組が声をかけていた。
「ねぇねぇそこの美人さん。ちょっと俺らと遊ばない?」
などという典型的すぎる声の掛け方だった。
「すいません。友人を待っているので」
「へー、もしかしてその子って女の子?その子もいていいから遊ぼ」
諦めない2人にいい加減不快になった私は、背を向けて別の場所に移動しようとする。
「ねぇいーじゃーん」
すると、男の1人が私の腕を掴んできた。
一生懸命振り払おうとするも、私では筋肉質な男には敵わない。
思わず怖くなり、目尻に涙を浮かべ始めたところに、彼がきた。
「はいはい、ちょっとやりすぎだよ」
といい、軽い感じを出しながらも私を掴んでいた男の腕をはらう。
「この子、俺の知り合いだからさ。あんまこういうことしないでくれる?」
その言葉と共に、男を掴んでいた右手に力を込めた。
「痛ってぇぇぇ!!」
と男は叫び、がむしゃらに腕を振る。
それでも佐藤くんは話すことなく真顔で力を加え続ける。
思わず怖くなったらしいもう片方の男が逃げ出すと、佐藤くんもその手を離し、離された男も退散していった。
思いもよらなかった出来事に混乱していた私を尻目に、佐藤くんは去っていく。
いまだに恐怖の残っている中、雫が戻ってきた。
「ど、どうしたの!?」
と問いかけた。
ナンパされたが、佐藤くんに助けられたと伝えると、雫は安堵したように肩を撫で下ろした。
この時なのだろう。私が佐藤くん惚れてしまっていたのは。
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