第5話
住んでいた家に別れを告げ、剣を腰にさげ森の中を歩きながら今後のことについて考えていると、ふと違和感に気づいた。
一旦歩みを止め、森の中で目を瞑り、耳を澄ますと、3人ほどの人間がこちらに急速で迫ってきているのがわかった。
こんな人里離れた森に人間が来ることなんて、この10数年で一度もなかったが。
腰の剣に手をかけ、気配の向かっている方向に構えていると、予想通り、3人の、顔を隠した黒ずくめの男たちが姿を現した。
構えている俺を見て、一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに切り替え、1人はこちらに『火球』を放ち、残る2人が二手に分かれて襲いかかってくる。
遅いな。この程度なら『あれ』を使わなくても楽勝だろう。
俺は剣を魔力で覆い、正面の魔法使いに向かって突っ込む。目の前にあった『火球』を真っ二つにし、そのまま斬りかかると魔法使いはなすすべもなく斬られる。
「な!」
生き残りのうちの片方が、ありえないと言った表情でこちらを見る。
「どうした?」
「な、なぜ魔法の切断ができるんだ!」
え?これ当たり前じゃないのか?爺さんは「基礎技術だ」なんて抜かしていたが。まあ、こいつができないだけか。
「…基礎技術だろう」
そう言って、会話を早々に切り上げ、切りに行く。
しかし、相手も雑魚ではないのか、ギリギリ、と言った感じで剣を防ぐ。
「甘いな」
俺の剣を防ぐのに夢中になっている中、後ろから飛んできた風魔法『風刃』が、首を切り裂く。
「…は?」
何が起こったかわからないという表情のまま、相手は崩れ落ちる。
「さて……まあ、逃してやるか」
戦いの途中に残りの敵は逃げ出したが、まああの程度のやつなら取るに足らないだろう。
「…よし、そろそろ出てきたらどうだ?」
返事はない。
「顔も見られないままに切られたくはないだろう」
…だめか。
「こっちにお前を傷つける意思はない」
そう言いながら、俺は剣を地面に置く。
すると、目の前の空間に人が現れた。
黒髪に黒目の男だ。装備は貧相。
「…何者だ?」
と、問いかけると、向こうは何かぶつぶつ呟き始めた。
「何者だと言われると…何者なんだろうな。そもそもがこの世界の人間じゃないわけだしな………」
と、考え込んでいる。
「まあ、お前の敵ではないさ」
と肩をすくめる。
「ところでお前強いな。…俺とこないか?」
「は?」
そりゃあこんな反応になるだろう。
急に現れた得体もしれない男に、「俺とこい」だなんて言われたら。
「いや、お前強いからさ。特に目的もないなら一緒についてきて、剣とか教えて欲しいんだわ」
確かに、よく考えればさっきまでの俺はやることも決まってなかったし、これはそこそこいい提案…なのか?
1人で旅をするよりは2人の方が楽しそうだし…どうしようか。
別に悪くない話だと思った俺が懸念している事項は一つ。
それは、こいつが俺に害意を持っているかもしれない、と言うことだ。
しかし、今のところ、こいつからは特に害意は感じないし、戦いになっても俺が勝つだろう。そこら辺は契約魔法でなんとかなると思うし。
「…まあ、いいだろう」
「本当か!?」
「ああ」
男は笑顔になり、こちらに握手を求めてくる。
だが、身の安全を確保するために妥協してはいけないだろう。
「その前に、念の為に契約魔法を結んでおこう」
「ケイヤクマホウって……何?」
は?
△
まずいまずいまずいぃぃぃぃ!!!
どうも。ただいま絶賛逃亡中です。佐藤です。
胡散臭さマックスのクソ女に事実上の追放をされた俺は、よくわからない森の中を全力で走る。
いや、そりゃあね?神楽と離れさせられて、しかも馬車で森の中にまで連れてこられた時には、もう全てを察してはいたよ?だってあからさますぎるもん。反抗した俺を殺したい感じビンビンだもん。
で、森の中を歩いてたら、後ろから殺意を持った3人が追っかけてきたってわけ。
え?なんでレベル1の俺が逃げられているかって?それはねぇ…スキル『暗殺者』のおかげですよ。もうこれがなかったら今頃死んでるね。
なんとこのスキル、自信を完璧な透明人間にしてくれるのだ。
昔から「影がうすい」と言われ慣れてはいたが、まさかこんなにまでなるとは…人生、わからない物である。
さて、こんな茶番をしてはいるが、俺は今、本当に命の危機が迫っている。追ってきた男たちは俺がスキルで姿を隠したのを察したのか、周辺を詳しく調べている。
透明だからといって物理判定がないわけではないために、俺はいま、息を殺して潜んでいる。
このままだとまずい、と思っていると、少し遠くの方から話し声が聞こえる。どうやら、いざこざが起こっているようだ。もしかしたら逃げるチャンスかもしれないと思った俺は、こっそりと、音を立てないようにしながらも様子を見に行く。
するとそこには、俺を追ってきた男3人をまるで子供のように扱い、殺していってる謎の男の姿があった。
思いもよらなかった光景に驚きながらも戦いを観戦する。
謎の男は信じられないほどの身体能力と剣技で男たちを圧倒している。
その剣技は素人目から見ても美しい物であり、思わず俺は見惚れそうになっていた。一切の無駄がないその剣技は、相手に反撃の隙も与えずに斬りかかる。
ぼーっと戦いを見ていると、いつの間にかその場には謎の男しか立っていなかった。
すると、男がこちらを向き、話しかけてきた。
「…よし、そろそろ出てきたらどうだ?」
…!まさか、俺に気がついている?
いや、そんなはずはないだろう。今の俺はスキルによって完全に透明人間になっているのだ。
しかし、こんな森の中、この男が話しかける相手なんて俺ぐらいだろう。
しばらく様子を見てみようと思って姿を現せずにいたが、その間にも男は剣を地面に置き、害意がないことをアピールしながら話しかけてくる。
……これは出るしかないか。
覚悟を決めた俺は、スキルを解除し姿を現した。
すると男は驚きながらも、観察をしてくる。
そんな場で俺は、賭けに出ることにした。この男がどう思うかは知らないが、成功した場合のリターンは計り知れないだろう。そう思い、俺は口を開いた。
「ところでお前強いな。…俺とこないか?」
男はよくわからない、といった反応をしながらも、検討を始めたらしい。
しばらく時間が経ったあと、「キリ」という名前の男は了承してくれたらしい。
ところで、ケイヤクマホウって……何?
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