第4話

   コンッコンッコンッ


 というノックの音と共に目が覚める。


「はぁーい」


 と、未だ眠たい眼をこすりながらも返事をすると、


『入ってもよろしいでしょうか』


 という声が聞こえる。


「はい」


 と俺が返事をすると、昨日俺を案内してくれた人が入ってきた。


「リューヤ様、朝食のお時間です。食堂で召し上がりますか?もしくはこの場にお運びしましょうか?」


 おお…そんなにサービス精神旺盛だとは。


「そうですねぇ…他の人たちはどうしていますか?」


「ほとんどの方々が食堂にてお召し上がりになるそうです」


「じゃあ、僕もそうします」


「承知いたしました」


 まあ、こんなところで「協調性のないやつ」とか思われても仕方ないしな。

 昨晩は部屋に置いてあった、パジャマらしき服を着て寝たため、俺は制服に着替える。


 部屋を出て、待機していたメイドの案内に従い食堂に行くと、制服姿のクラスメートたちが和気藹々と食事をしている。


 ……異世界らしきところに来て、たったの1日でこんなにも順応するとは、こいつらもなかなかだな。


 そう思いながら入り口付近で俺がぼーっとしていると、こちらに気づいたらしき神倉さんが、お話をしていた周りの友人たちに断りを入れ、こちらに駆け寄ってきた。

 相も変わらず、クラス中からの視線が突き刺さる。


「おはよう、神倉さん」


「おはよう、佐藤くん」


 神倉さんも相も変わらないようだ。

 そんな感じで、いいベッドだったねー、とか、ご飯美味しいねー、とか、平和な雰囲気で会話をしていると、さっき神倉さんが話していた集団の中から一際オーラを纏った人物が歩いてくる。

 

 名前は龍神咲夜。

 いかにもといった名前の彼は、容姿はテレビの向こうにいても遜色ないほどに端麗、頭脳は常に全国模試で一桁に入るほどに明晰、運動能力もピカイチという、信じられないほどの才覚の持ち主だ。

 

 …その分、性格も肥大してしまっているが。


「おい神倉、そんな雑魚と共にいたらお前の価値まで下がってしまうぞ。こちらに来い」


 自分が正しいと信じて疑わないような、そんな目をしている。まあ、これほどの才覚の持ち主だ、こうなるのも仕方がないだろう。


「そんなこ「いやーごめんね、神倉さん。相談に乗ってくれてありがとね」え!?」


 神倉さんが驚きの表情でこちらを見てくるが、俺だって極力平和に暮らして行きたいのさ。悪いが、ここは戻ってもらおう。


「そういうことだ。ほら、いくぞ神倉」


「う、うん…」


 釈然としない表情で、神倉さんは去っていった。


 ふぅ…、と一息ついた俺はもう一度気配を消し、平和に過ごした。






 朝食後、俺らはまとめて案内され、訓練場に来ていた。

 昨日言っていた『説明』とやらをしてくれるのだろう。あの女が待っていた。


 案内通りに全員が女のもとに集まると、相変わらずの胡散臭い笑顔で女が話し始めた。


「さて、今からみなさんには、自身に備わっている『スキル』というものを確かめてもらいます」


 その言葉に、一部の男子がざわめく。


「来たぜ俺の時代!」

「雑魚そうなのこいよ!」

「読めないようなのでもいいぞ!」


 …よくわからないな。


 そこから、女はこの世界におけるスキルの立ち位置について説明していった。


 大方は、昨日メイドから聞いたことと合致している。


 スキルとは異世界人固有の力で、多くのものが魔法とは枠外の力を保有していること、などだ。


「これから皆さんには、自分のスキルを確認してもらい、任意ではありますが、その内容を教えてもらいたいと思います。教えてくれた方には、こちらから、講師として適正のある者を付けさせていただきます。やり方としましては、自身の内部に意識をむけ、『ステータス』と唱えてもらうだけです」


 その言葉と共に、全員がワクワクとした表情でスキルを確認していく。

 俺もやるか。


「ステータス」


 と唱えると、頭の中に文字が浮かんできた。




 リューヤ サトウ



 Lv1


 HP  579

 MP  1

 攻撃 233

 防御 168

 速さ 79


『神堕し』

『暗殺者』




 平均値がどれほどものなのかはわからないためにステータスについてはなんとも言えないが、このスキルは、どう見ても普通じゃないだろう。

 周りの反応を見てみても、「波動」とか、「鑑定」とか、そんなものばかりだ。スキル名の報告は任意ということだし、黙っておこう。


 そんなことを思っていると、スキルを書き留めているメイドがこちら側に来た。


「スキル名を聞いてもよろしいでしょうか」


「黙秘させていただきます」


「…かしこまりました」


 不穏な表情をしていた気がしたが、まあ気のせいだろう。スキルの黙秘なんかも、俺だけがやるわけではないだろうし。


 と思っていると、遠くの方で「おお!」という歓声が聞こえた。どうやら原因は、龍神のスキルのようだ。


「まさかスキル三つ持ちとは!これは過去に例がないほどですぞ!」


 近くにいた爺さんが声を上げる。


 龍神はこの世界でも天才らしい。

 当の本人は、それがさも当然であるかの如く、落ち着いている。

 様子を見ていたらしい女が歩み寄る。


「すごいですね、リュウジンさん。三つ持ちとは、本当に前例がないですよ」

「ふん、あたりまえだ」


 女も驚いているらしい。それほどまでに三つ持ちというのはすごいらしい。

 …しかし、「前例がない」とは一体どういうことだ?

 俺たちの前にも異世界人が召喚されている?

 だとしたら、なぜ魔王は未だに倒されていない?

 なぜ俺たちに教えていなかった?

 何か都合の悪いことが?


 数々の疑問が頭の中を駆け巡る。

 まあ、追々確かめていくとしよう。


 全員の確認が終わったらしく、女はまた説明を始めた。


「みなさんにはこれから、魔王を倒すために、修行を行ってもらいます。いくらスキルがあると言えども、レベル1では厳しいですから」


 と、女は言う。


 そのあとは、スキル別で指導を行うらしく、従者から受け取った書類を片手に、系統別で生徒を分けていった。


 どんどんと生徒が振り分けられていき、最終的には……俺を含めた2人が残った。


 俺ら以外の生徒はそれぞれの担当者に連れて行かれ、訓練場には、俺たちと女が残った。


「あらあら、あなた方は黙秘をしたようですが…何か、やましいことでも?」


 そういった女は、顔を突き合わすように、不気味な笑顔と共に近づいてきた。


「黙秘をしていいと言ったのは、あなたのはずですが」


 もう1人の女、神楽瑞稀が答える。


「えぇ、えぇ、確かに言いましたね……ですが、何故黙秘をするのでしょう…スキルを報告すれば、自分に合った訓練が受けられるのに…それが、私にはとても不思議でしてね?」


「あなたがまだ信用できないので」


「え、えぇ?それは、非常に、寂しいですぅ」


 表情を一変。いかにも悲しそうな顔で、オヨヨ…、と泣くような真似をする。


 胡散臭っ。


 すると、パッと表情を明るくし、パンッ、と手を叩く。


「あ、わかりました!つまりお二人は、自分1人で十分だから、私たちの用意する訓練などはいらないと、そう言うことですね!」


「いえ、そう言うこ「そうですよねー!お強い2人なら、それも仕方がありませんね!いえいえ、すいません、考えが及ばず!」…はぁ」


 否定しようとしていた神楽を遮り、甲高い声で女は喋る。


「そうですねぇそんなお強ぉ〜〜いお二人には、皆様の次のステップに行ってもらいましょう!」


 …やらしい女だな。


「どのような物でしょう?」


 俺は尋ねる。


「えぇ、えぇ、お二人には、ひ と り で 武者修行をしてもらいます」


 いや……始末する気満々かよ。

 まあ、この胡散臭い女から離れられると思えば、それもいいか。


「「わかりました」」


 神楽も同じ考えだったらしい。


「えぇ……お二人には、装備をお渡しするので、今日の夕方には旅立ってっもらいます」


 ピクピクと、青筋を浮かべながら、そう言い残して去っていった。














 女神の間



 ダンッ!!


 と、乱暴にドアが開かれる。

 女神以外の入室が許可されていないその部屋に入ってきた女は、上質なベッドに飛び込み、うつ伏せになった状態のまま口を開いた。



 








 猿どもが調子に乗っている、と。













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