第29話

「あの、こないだの茶会でカーティスと大広間に戻ってこられましたよね」

「ええ」

「それは一体…?」


 私は胸で生じていた疑念を丸ごとメラニーへとぶつけてみた。するとメラニーはそのまま実はね、と口を開く。


「前々からカーティスと話してみたかったのよね。あの方となら仲良くやれそうって言うか」


 その言葉を聞いた私は脳内で「ギリアを胸に」のラストシーンが浮かび上がる。マーレとカーティスが結ばれ結婚式を挙げるシーンだ。

 そこにはサリオスの姿は無く、マーレがカーティス以前関係を持った男も描かれていなかったと記憶している。


(やはりマーレだからか。カーティスに惹かれるのは…じゃあ、サリオスについてはどう思っているのだろうか)

「あの、ではサリオス様は…?」

「…もう、冷めてしまったというか…でも好きだったのに、なぜかはわからないのだけれど」


 メラニーは首をかしげながらそう語った。自分でも何を言っているかよく分からないと言った表情に、私は頭の中でどういう事だろうかと呟きながらじっと注視する。


(サリオスは最近ご無沙汰だと語っていたし、今はサリオスよりカーティスの方が気持ちが勝っているという事か?)


 メラニーは元をたどれば、親同士の斡旋、要はサリオスとは政略結婚のような形で結婚した仲である。恋愛結婚で結ばれた訳では無い。


「でもサリオスの事も好きだと思いたいの」

「メラニー様」

「なんだか、自分がよく分からない…」


 メラニーは肩で大きく息を吐くと、視線を真紅のカーペットが引かれた床へと落とす。もう一度私の顔へ視線を向けたのはしばらくしてからの事だった。


「そうだ。あなたは気になる男性とかいる?」

「私は…」

(勿論)

「サリオス様です」




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