第28話

 今目の前にいるのは、サリオスの妻メラニーである。しかしそのメラニーはメラニーでもあり、マーレでもあると語っている。


「あなた、本当の名前を聞かせて」

 

 メラニーが静かな口調で私へ語り掛ける。そこに怒りや憎しみと言った負の雰囲気はどこにも見当たらない。

 私は口を閉ざし、彼女の様子を見つつ自らの身の上を語る意志を固めた。


(教えるか)

「久栖梨沙と申します。…梨沙って読んでください」

「リサ、ね。聞きなれない名前だけれど、良い名前だと思うわ」

「ありがとうございます」


 私は事務的にぺこりと頭を下げる。メラニーの話はまだまだ続く。


「あなたはどうやってここに?」

(そう言われてもよくわかんないんだよなあ…)


 私はなんかよく分からないけど気づいたらこうなってた。とメラニーに語ったのだった。メラニーは軽く頷きながら私の話を聞いていた。まるで何かを感じ取っているようだ。


「成る程ね…」

「何か心当たりでも?」

「いや、私もなんでこうなったのかわからなくて…ジェインに調べさせてもらってはいるのだけれど」

「ジェイン?」

(あの、屋敷に出入りしてるチャラ男魔術師か!)


 思わず私は脳内で頷く。


(もしかして、浮気ではない…?)


 私は意を決して、ジェインとの仲をメラニーに聞いたのである。


「調べさせてもらってるだけの仲よ。そういう仲では無いわ」


 私はその言葉にほっと胸の中で息を吐いた。のも束の間。新たな疑念が生じてくる。


(じゃあ…カーティスは?)



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