第10話

 あれから一週間が過ぎた。娼館の生活と客との接待にも慣れて来た頃。そして夕方に約束のサリオスがやって来る日である。


「マーレ最近何かいい事でもあった?」


 ここはリズの部屋。白い陶器の花瓶に飾られた色とりどりの花から良い香りが広がっている。リズお気に入りの紅茶と小さなサンドイッチにクッキーを頬張りながら話に花を咲かせている。


「いえ、そこまで」

「本当?」


 リズが近づき私の目を覗き込んだ。私は目を伏せようとしてしまうのを我慢して、そのままリズの目を見る。


(さすがにサリオスの事は言えないしなあ)

「まあ、何かあれば私に相談するのよ、一人で抱え込むのは良くないしね」

「ええ、そうね」

「あ、そうだ。昨日ワトソン様から茶会のお誘いがあってね。マーレも行く?」


 ワトソンとは国王に仕える大臣の一人だ。スマホで女好きとは記されていたが、そのような存在も娼館に来ているとなると、かなりの著名人が訪れている事の証左になる。

 

(サリオスやメラニーに関する噂も聞けるかもしれない)


 情報収集の為にも私は茶会への参加をリズに伝えた。リズは軽く笑ってワトソンへ伝えておくと告げたのだった。


(リズは頼れるな)


 夕方。娼館がのドアが開き客の貴族達がやって来る。一気に騒がしくなる娼館の自室の中で私は外の景色を眺めていた。


「もう来るかな」


 スマホを開くと待ち受け画面にサリオスが娼館の目の前まで来ているというバナーが表示された。どうやらこのスマホにはそういう機能もあるらしい。


「サリオスが来館しました」

(来たっ!)


 私はスマホを服のポケットにしまうと、駆け足で部屋を飛びでて階段を降りた。丁度一階のエントランスホールにサリオスとサリオスと同じ軍服を着た軍人の二人の姿が見える。


「サリオス様…!」

「マーレ!」

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