第7話
「マーレ、お前はまだ私を愛してくれているのだな」
「ええ、はい…!」
「婚約破棄となりはや十年。今や私には妻子がいるが、それでもなお愛してくれるのか」
「はい…!」
サリオスはぎゅっと唇をかみしめながら私へ穏やかに語り掛ける。その口調はこれまで聞いた彼の声の中で最も優しい声色だった。
「ではこうしよう。毎週金曜日にここに来る。時々同僚や部下達を連れてな」
「サリオス様…」
「そしてお前と朝まで過ごそう。これで良いか?」
(まじ?毎週花金にサリオスと会えるってコト?!)
「はい、勿論構いませんわ!」
私は即答した。胸の内から湧いて出てくる興奮を抑えきれず鼻息を荒くしてしまうが、それと同時に一つ何か引っ掛かりが胸の中で生まれた。
(はたして本当に来てくれるのだろうか)
「サリオス様」
「何だ」
「その約束、本当にお守りいたしますよね?」
(サリオスは妻子持ち…推しだけど信用できない部分も少しだけある)
「わかった。では、魔術をかけよう」
「へ?!」
サリオスはズボンのポケットから赤い毛糸のような糸を出した。その糸の先端を丁度心臓の真上にあたる位置に置くと、もう片方の先端部分を私の心臓の真上の位置に置く。
まるで糸を通してサリオスと私の心臓が繋がっているような、そんな構図になっている。
「プロムシェル…」
サリオスがおまじないのような呪文を唱えると一瞬糸が赤く火花のように光った。
「わっ」
驚く私をよそにサリオスは糸を自身と私の胸から離し、何事もなかったかのように糸をポケットの中にしまった。
「これは約束を守らなければしばらく心臓が止まって一時的に仮死状態になるという魔術だ。もちろん発動すると心臓に痛みが走る」
(そんなものかけたの?!)
「これくらいした方が、お前も安心できるだろう?」
「は、はい…」
(重い…思ったより重い…)
「では、また会おう」
サリオスは踵を返して朝の街へと消えていった。振り返るとドアからは続々と客の貴族達と彼らとの別れを惜しむ娼婦が出て行き、サリオスと同じように朝の街へと向かって行く。
「マーレ、おはよう」
挨拶してきたのはマーレと同じ高級娼婦で一つ先輩にあたるリズだ。漫画内では気さくな女性キャラでマーレのよき相談相手として描かれている。
「おはようございます。リズさん」
「こちらこそ。今日も良い一日になりますように」
リズが朝日へ体を向けてそっと目を閉じて手を合わせた。
(よし、頑張ろう…!)
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