こんちきしょうめ

満身創痍のまま、逢沢はヨロヨロと立ち上がる。その足元には、水色の結晶の破片。

破壊ブレイクされたシールドだ。


如月の殴打が入る瞬間、残り三枚のシールドが割り込み、その攻撃を大きく受け流したのだ。それでも致命傷に近しいダメージではあったのだが...。


「...ちょっとワクワクさせんなよ。」


如月はタバコの火を、ホテルの壁で揉み消して言った。そして如月は、はたと自分が只今発した言葉を見つめ直した。今まで否定してきた何か、何か感情が自分の中で渦巻いていることを彼は感じたのだ。


逢沢は両足でガッチリと立ち直すと、シールドの破片の中から一枚のDデュエルMマスターカードを取り出した。


Sシールド・トリガー発動。」


逢沢の持つカードが翠色すいしょくに発行する!!!!


Sシールド・トリガー』。

デュエル・マスターズにおいて最も有名なキーワード能力の一つであり、このゲームの醍醐味だいごみ


この能力を持つカードがブレイクされたシールドから出現した場合、コストを支払わずにプレイできる。

不確定の逆転要素。

人が時にみ、時に敬う、運ッ!!!!!

運、そのものであるッッ!!!!!!!!


「...ベイビー・バース!!!!!!!!」


逢沢のデッキケースから、待ってましたとばかりに一枚のカードが飛び出し、空中で人の形をとる。


イノシシのような頭。胎児のような腹部。

4枚目の「電磁無頼アカシック・サード」が!!


アカシック・サードは軽やかな身のこなしで如月に飛びかかる!!!!

ジャンプパンチ!!!!!!!!


「...ッ!!」


如月は瞬速的速度で右腕を構え、これをガード!!!!


柏手のような音!!!!

アカシック・サードが消え、逢沢の前にデッキが現れる!!!!


逢沢は一つ深呼吸すると、またも宙に浮いたデッキを大きく蹴り上げる!!!!


空中に散乱する数枚のカード!!!!


初撃に一枚、その後の抽選で用いた一枚と捲れた一枚。そして、今の一枚。もはや、逢沢のデッキ内にアカシック・サードは一枚も残っていない!!!!


つまり、まくれるカードは必然!!!!


「第七神帝サハスラーラ!!!!」


逢沢は黒光りする一枚のカードを掴み取る!!

運命の切札を!!!!


...その時である!!!!


「変身。」


如月が呟いた。

その頭部を、機械化したネコ科のようなフルフェイスマスクが覆う!!!!!!!!


チーターめいた流線的シルバー曲線!!!!

「WILD MAN -ワイルドマン-」である!!!!


特筆すべきはそのスピード!!!!最高時速110km!!!!

圧倒的な瞬間加速能力と卓越した筋肉によって繰り出される超強力な一撃は万事一切を灰塵かいじんと化す!!!!


しかし、そのスピード及び変身を維持できるのは約20秒ほど!!!!

まさにHISSATSUめいた切札である!!!!


ワイルドマンは逢沢に向かって風のように駆ける!!!!!!!!


ワイルドマンは停止状態から3〜4秒ほどでトップスピードに至ることができるが、逢沢との距離を鑑みるにその爆発的瞬発性を読者諸氏にお見せするのは、今回はお預けだ!!!!

誠に申し訳ないッッ!!!!!!!!


しかし、見てくれ!!!!!!!!

トップスピードに至らずともいちじるしい、この瞬発性を!!!!

この速さをもって、逢沢が手にしたサハスラーラを体内に取り込む前に潰そうというのだ!!


ワイルドマンは数コンマで逢沢の目前に至った!!!!

その非現実的な速度を持った拳が逢沢に迫る!!!!!!!!


おぉ!?このまま逢沢は折角手にしたチャンスを用いることができず、無惨に叩き殺されてしまうのか!?


...だが!!!!

逢沢は0.01秒間に56回絶頂!!!!!!!!


濁流めいた精液が彼のズボンを突き破って逆噴射!!!!!!!!


ワイルドマンの動きを僅かに阻害しつつ、逢沢の手のひらのカードをダイレクトに口内に流し込む!!!!!!!!


精液と共に逢沢の口内に押し込まれるサハスラーラ!!!!


ゴクン、と喉を鳴らす音。


逢沢の体内から膨大な黒いエネルギーが溢れ出し、周囲のボルテージを沸騰させる!!!!


逢沢はギリギリまで迫っていたワイルドマンの拳を受け止めた。


...そこから先は描写できない。

辛うじてわかるのは、彼らが殴る蹴るの押収を行なっていることである。


彼らの動きはもはや亜音速に近く、常人の動体視力では捉えることが不可能!!!!


残像と風圧が、

爆ぜる!!!!!!!!

群がる!!!!!!!!!!!!

交錯する!!!!!!!!

スピードと暴力のトランジション!!!!


轟音が、一つ轟いた。


見れば、ワイルドマンが正拳突きの体勢で静止していた。


その先には壁に激突し、クレーターのような衝突痕を作った逢沢の体が一つ。


先の衝撃で故障したのか、スプリンクラーが作動し、二者を湿らす。


ワイルドマンは足元でうごめくアカシック・サードの頭を踏み砕くと、フラリと立ちくらむ。

そのマスクが電源の落ちたパソコンのように輝きを失い、地面に落下し、元の如月の顔をあらわにした。制限時間だ。


「...マジかよ。」


如月の視線の先には、またも一人の男が立っていた。逢沢だ。


如月はその光景に、何故か安堵を覚えた。

この男は何度も、何度も立ち上がってくるのだと。その都度立ち向かってくるのだ、と!!

逢沢の渇望に満ちた視線、それに如月の心は少しずつ、だが着実に燃えていた。


逢沢は言った。


逢沢は血反吐を吐き捨てると、口先を引き攣らせて言う。


「...おっさん!!」


息を切らせながら、逢沢は構える。


決闘デュエルしようぜ...!!」


それ以上の言葉はなかった。


如月は思考する。


互いのリソースを削り切った今、始まるのは泥臭い殴り合い。今後の戦闘も考慮に入れるとなると、合理的とはいえない。

非常に無価値な戦いを今、提案されている。


無論、敵前逃亡という選択肢もある。

要は満身創痍の逢沢を取り残して、さっさとキックマンを殺してしまえば良いのだ。それが一番、理性的な選択ともいえる。


...だが!!!!


現在いまは理屈じゃねえッ...!!!!


「いいぜ。」


気付けば、如月は構えていた。

体が弾け出されるような、そんな「熱」に身を任せて。


それと同時に青春パンクの力強いビートが流れ出す!!!!

!!!!スペシャルなサウンド!!!!


SYOKEIである!!!!感情の螺旋らせんに巻き込まれ、そのアトモスフィアが音楽となって顕現したのだ!!!


彼は、逢沢を自分とは一切考え方の異なる人間だと感じていた。


彼は、生きることに必死だった。仕事として戦い、殺し、生きる。戦闘は常に過程で、彼にとっては何の意味も見出せなかった。


だが、今は...!!


拳を伝い、逢沢の魂が、熱が!!!!

その心を確かに燃やす!!!!!!!!


戦いたいと、全力で今を生き抜きたいと、そう思わせる!!!!


戦闘とは果てなき相互理解!!!!

決闘デュエルとはその極地!!!!


今、形骸なき体に、燃えたぎるような心血が注がれ、心を溶かしたのだ!!!!!!!


如月は覚えた。思い出した。

幼き頃、街頭テレビでボクシングの試合を見た時の、あの瞳の奥の炎を。確かに。


疲労と熱意にせられた二人は、肩で呼吸を繰り返しながら、愚かにも相見える。


逢沢の突き蹴り!!!!

如月は右手を掲げるようにしてこれをガード!!


如月の左ストレート!!!!!!!!

逢沢は抑え込むようにして、左肘でこれの軌道ずらし、首筋に水平チョップを叩き込む!!


直撃!!!!

しかし如月は怯むことなく、右のフックを逢沢の頬に叩き込む!!!!


これも直撃!!!!

逢沢は吐血する!!!!


...が、両者とも間髪入れずに殴り合いを続ける!!!!!!!!

野暮ったく、つまらない、餓鬼の喧嘩めいた泥試合!!!!!!!だが、これでいい!!!!


「...おい!この気持ちは何だ!?あんなにつまらないと思っていた今を、俺は心の底から楽しみたい!お前とだッッ!!お前の一挙手一投足に心がおどり始めている!!この気持ちは何だ!?情熱か!?激情か!!?」


如月の気力に満ちたフック!!!!

逢沢はそれをあえて受け、カウンター的に膝蹴りを喰らわせる!!!!


「あぁ!?知らねぇってなら、耳鼻咽喉じびいんこうかっぽじてよぉ〜〜〜く聞けッッッッ!!!!」


逢沢の力強いストレートが如月の腹を射抜く!!!!!


「“熱血”だよ」


如月が吐血し、思わずその両膝を床につく。


...が、如月の左フックが逢沢の側頭部にヒットする!!!!

如月は強がる餓鬼のように立ち上がる!!!!


さぁ、剥き出しの熱血をあるがままに!!!!我がままに!!!!


脳を震わせろォ!!!!!!!!

有する力を余すことなくッ!!!!

際限なくッッ!!!!!!!!!!!


意味など、ない!!!!知らない!!!!

ロジカルじゃあ測れない!!!!


漢とはそういう生物なのだッッッ!!!!!


おぉ!!!!!!!!

人よ!!!!世界よ!!!!

放射冷却で凍えきった夜よ!!!!!!!!


見よッッ!!!!刮目せよッッ!!!!

思い出すのだッッ!!!!!!!!

ありし日の「熱」を!!!!炎を!!!!

その糧をッッッッ!!!!!!!!


...そう!!!!


その手で取り戻せ!!!!!!!!


魂を取り戻せ!!!!!!!!


掴み、そして取り返せ!!!!!!!!


「「ひっくり返したれやぁぁぁ!!!!」」


二者が咆哮し、同時に拳を振りかぶる。


交錯したそれは、尽きることのない何かを湛えて。

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