美孔麗!コミックリリヰフヤリチン!!

「HOTEL チベットからの小包」。

そんな看板の立った連れ込み宿が一つ。

その用途とは見合わないラグジュアリーな雰囲気。普段ならば若者達の逢瀬おうせの場として、いつも通りの矯声きょうせいを鳴り響かせていたことだろう。


しかし、今夜のチェックインは二人だけであった。


ホテル壁面に空けられた大穴からネオンサインの光が一人の男の背中を照らす。

整った顔立ちと今めかしい風貌。

逢沢涼。生粋のヤリチンだ。


「おっさん、何の動物?カピバラ?」


「...ケープハイラックスだ。」


その軽快な視線の先には獣人めいたシルエット。如月だ。


「...?何の仲間?カピバラ?」


「分類上は象に近い。」


「へぇ...。トリビアの泉。」


逢沢は短い息をなまめかしく一つ吐くと、革ベルトの右腰にあたる部分に付いたケースの蓋を開けた。


「おっさんさぁ...最近のカードパワーを一定の型に押し込める趨勢すうせい。どう思う?アビスだの、水晶だの、種族オレらだの。デザイナーズコンボ?一定の強度が担保されたデッキを公式が想定した用途で使え、と?どうよ、何もかも無責任だと思わん?」


「何の話だ...。」


逢沢は細い指をケースの中に潜り込ませ、人差し指と中指でコンパクトに五枚のカードを摘み出す。


「俺はさぁ...もっと広い発想で使ってやりたいんだよ。例えどうしようもなかったって、心にガチッとハマったコンボを...それを実現するために俺は邁進まいしんしたい。まぁ、要は...」


逢沢はカードを掴んだ手を左から右へ打ち振るう!!

すると、どうだ!!五枚のカードはまるで意思を持つように逢沢の手から離れる。


それらは水色のガラス板のような材質へと変化し、下敷きほどのサイズへ巨大化!!

盾めいて逢沢の前方へ展開される!!


逢沢は同じようにしてもう一枚、ケースからカードを取り出し、如月に見せつけるかのようにして構えた。

青光りするそのカード...DデュエルMマスターズカードを!!!!


「ファンデッキ無くして天命無し、ってこと。」


如月は、その一瞬で全てを理解したかのように戦闘の態勢をとる!!

緊張的一瞬!!!!


「なるほど。お前、決闘者デュエリストだったのか...!!」


「...Exactly!!!!」


激しく熱かりしカードバトル!!!!!!!!

デュエェェェェェェル・マスターズ!!!!


『デュエル・マスターズ』とは、テコンドー世界チャンプ・武者小路実篤が、既存のカードゲームと陰陽術おんみょうじゅつとを複合させて編み出した中国拳法の一種である。


D・Mカードを巧みに操りし者・決闘者デュエリスト!!!!

彼らはD・Mカードを媒介、脳への負荷をコストとしてクリーチャーを現実に召喚したり、呪文を実際の攻撃として運用することができる!!!!

多種多様なクリーチャーを使役して敵を屠る!!!!まさに現代の召喚魔術!!!!


また、彼らを守る5枚の盾・シールド!!!!

薄く脆い盾ではあるが、相手の攻撃をフルオートで受けることが可能ポッシブル!!!!その威力を大きく削ぐことだろう!!!!!!!!

ただし、割り切られると無防備な決闘者デュエリストへの物理的攻撃を許すこととなり、非常に危険!!!!

出来るだけ、盾を割られずに立ち回ることが決闘者デュエリストには求められる!!!!


これらを割り切られる前に様々なカードをプレイし、相手のリソースを削り切ることが決闘者デュエリストの勝利条件!!!!


対して、相手の強力なコンボが成立する前にシールドを全て破壊し、決闘者の息の根を止めることが非決闘者デュエリストの勝利条件である!!!!


「召喚。」


逢沢は不適な笑みを浮かべ、構えたカードを裏返す。


「電磁無頼アカシック・サード!!」


その言葉を風切りに、這い出るようにしてカードからクリーチャーが現れる。


腹部に水色の胎児のような文様の浮かび上がった二足歩行のイノシシである。

それ...アカシック・サードは地面に降り立つと、ボクサーめいたファイティングポーズをとった。


「あぁ、この感覚...やっぱいつ試してもきっちぃぜ...。」


そう呟く逢沢の鼻から、ボタボタと血液が零れ落ちる。

決闘者デュエリストは自らの分身としてクリーチャーを現世へアウトプットする。そのため、召喚したクリーチャーの知覚、思考アルゴリズム、その他情報は全て決闘者デュエリスト自身の脳で処理される。


純粋に処理する情報が倍々するのだ。

それに加わるクリーチャーを現実に押し留めるための輪郭・動作の脳内描画、戦闘に関するタクティクスの思考。

相当に脳神経を擦り減らす業である。


逢沢の脳細胞は常にフル回転し、赤いシミとなって宿の床に染み渡る。


逢沢は手の甲で鼻血を拭うと、誤魔化すように笑った。


「ほな、ドメスティック・バイオレンスしよか。」


乾いた言葉が二者の間に放たれた。

その途方は、悲鳴か。勝鬨かちどきか。

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