第25話 動き出す状況

「それで、事件の方はどうなんだ?両親に相談とかできたか?」


「それはちょっと、まだ難しいかな…。うちの両親って、毎日遅くまで仕事して疲れてるから、変に心配かけたくなくって…。」


 両親からしてみれば、こんな重大な事件に娘が巻き込まれていたら、変な心配どころか最優先で対応してくれると思うし、頼られるのが迷惑どころか頼って欲しいと思っていると思うが、あえて口には出さなかった。神宮さんとの会話の時にも考えたことだが、人は自分の性質を簡単には変えられない。如月は、せっかく変わろうとしているのだ。変に急かしたくはなかった。


「ストーカーの方は?あれから何かあったか?」


「ううん、昨日のあの一件からは何もないよ。」


「そうか、なら良かった。」


 昨日わざわざ、俺たちの前に現れるほどの性急な行動をとった犯人のことだから、あの後も何かしらのアクションがあったのではないかと不安に思ったが、どうやら杞憂だったようだ。しかし、だとするとなぜ犯人はあんな行動をとったのかが疑問になる。


 気持ちを抑えきれなくなって如月と接触したかったのだとしたら、あの後、何も行動が無いのはおかしい。メールを送りつけるなり、如月の家の外から、如月の部屋を眺めるなり、何かしら行動を起こすはずだ。


 また、この事件の犯人が終業式の日に俺を殺した犯人と同一人物で、如月を殺そうと、昨日俺たちの前に現れたとしても、おかしい。なぜなら、昨日俺が追いかけると、あいつは武器を見せるでもなく一目散に逃げ出したからだ。もし、どうしても如月を殺さなければならないのだとしたら、あの時武器を持って俺に襲いかかってきてもおかしくはなかった。


 如月以外の犠牲者を出すことを嫌ったのだとしても、おかしい。もしそうなら、俺と神宮さんを見つけるなり、公園から離れれば良かったはずだ。わざわざ、姿を現すメリットがない。


 考えれば考える程に、昨日の犯人の行動が分らない。まあ、犯人は狂人で、衝動的に行動していて、いちいち行動に論理性はないと言われればそこまでなのだが…。


「…どうしたの、涼風君?急に黙っちゃって。」


「いや、何でもないんだ。少し考え事をしてて。」


 如月を不安にさせないように努めて明るく振る舞う。


「そっか…。ちょっと、空気を入れ換えよっか。」


 そう言って、如月は窓の方に歩いて行った。おそらく、如月の不安が俺に伝染したと思われたのだろう。息苦しい状況を少しでも変えようと気遣ってくれたに違いない。


 失敗したな。俺が如月の不安を和らげてあげなきゃいけないのに、余計に不安にさせてしまった。


 とりあえず、考え事は後にして、今は如月を励ますことに集中しようと気持ちを切り替えていると、小さな悲鳴のような音が聞こえた。


 それは、如月が発した声で、窓の外を見つめる如月の顔は青ざめていた。


「どうした如月、大丈夫か?」


 俺は慌てて如月の方に駆け寄り、如月が見つめている窓の外を見た。


 そこには、昨日俺たちの前に姿を現したぶかぶかのフードを被り、サングラスとマスクを着けた人物が、不適に突っ立っており、こちらを見つめていた。

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一年前にタイムリープした俺は六人の美少女を攻略する 憂木 秋平 @yuki-shuuhei

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