第24話 如月花の部屋

 放課後になって、昨日と同じように、柴田先生からプリントを受け取って、神宮さんとは別れた。


 如月の家までの道のりは覚えていたため、辿り着くのに昨日ほど時間はかからなかった。


 昨日と同じように如月の家のインターフォンを押すと、如月が顔を出した。今日また俺が家に来るのを知っていたためだろう、昨日より多少身だしなみが整えられていた。


「今日もごめんね、涼風君。」


「気にしなくて言い。俺が助けたいんだって昨日言ったろ。そこは、ごめんじゃなくて、ありがとうで良いんだよ。」


「…うん、ありがとう。じゃあ、今日は家に上がっていって。簡単なお菓子とお茶なら出せるから。」


 昨日とは違って、今日は近くの公園ではなく、家に上がらせてもらえるようだ。一応、少しは信用されたのか、はたまた昨日と違って、俺が来ると分っていた分家の片付けをすることができたのかは謎である。


「両親とかは大丈夫なのか?」


 正直、ここで同級生の女子の両親とエンカウントなんていう、どう対応して良いのか分らないイベントは避けたかった。


「それは大丈夫。私の両親共働きで、当分帰ってこないから。」


「そっか、じゃあお言葉に甘えて。」


 そう言って、俺は如月の後についていって、如月の家に入った。地味に、同級生の女子の家に入るのははじめての経験なので、差し迫った事情があるというのに、浮かれてしまいそうになった。


 家に入ると、如月の部屋まで案内された。如月の部屋の第一印象は、整理整頓された綺麗な部屋というものだった。しかし、そんな中でも、女子らしさを感じさせるものがいくつかあった。何より、部屋が尋常じゃないくらいに良い匂いがして、女子の部屋に入ったのだという実感で、緊張して顔が強張った。


「その辺に適当に座って、楽にしててね。」


 …全然楽にできないのだが。もしかして、如月は天然なのだろうか。普通、男子が女子の部屋に来たら緊張で楽になんてできないと思うのだが…。


 まあ、そんな事を考える余裕がないくらいに追い込まれていて、不安なのだろう。その事情を考えると、変に緊張したりするのは如月に悪いか。


 意識的に気持ちを切り替えて、如月と事件のことを考える。そうすると、今まで体を覆っていた緊張が解け、少し体が軽くなったように感じた。


「こんなものしか出せないけど…。」


 如月が部屋に持ってきたのは、ティーバッグで作られた紅茶と市販のクッキーだった。


「全然良いのに。むしろ、紅茶とかお菓子とか、こっちが悪いくらいだ。」


「流石に、家にお客さんが来て、何も出せないのはちょっと…。」


 ここまで気を遣ってもらわくても大丈夫なのだが、如月の言うことも分るので、大人しく紅茶とクッキーに手をつけた。

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