第12話 白雪有栖というマイペースな少女
一日の授業が終わり、帰る準備をしていると、稲葉君が声をかけてきた。地味に稲葉君の方から声をかけてきてくれるのは初めてのことだ。
「涼風さん、昼休みの件ですが、生徒会役員の予定を全員分把握することができましたよ。」
「大分、早いな。」
稲葉君が声をかけてくるということは、その件についての話だと思ってはいたが、想像よりも大分早い。まさか、昨日の今日どころか、今日の今日で仕事を完遂してみせるとは、有能でよく働く男である。
「ありがとな、それで空いてるのはいつだった?」
「今日です。」
「早いな!」
仕事も早ければ、展開も早かった。稲葉君はいつもの回りくどい喋り方を抜きに結果を伝えてきた。
というか、回りくどくない喋り方ができるのなら、これからもぜひそうしてもらいたいのだが。
「一応聞いておくけど、今日以外の日だと、いつが空いているんだ?」
「10日後ですかね。」
10日後か。絶妙に遠い話だ。本音を言うと、今日は朝の時点で上原萌との関わりを持てたので、それで十分としたかったのだが、機会があるのにそれをみすみす見逃すというのは、如何なものだろうか。しかも、次の機会は10日後ときた。
悩むまでもない、面倒という感情を抜きに考えるのなら、機会があれば飛びつくべきだ。
「稲葉君、本当にありがとう。とりあえず今日行くことにするわ。」
「いえいえ、お礼なんてとんでもない。こちらもそれ相応の話を聞かせていただけるのですから。面白い展開を期待していますよ。」
「稲葉君、さっきまで普通に喋ってなかった?急にまた回りくどく感じるんだけど。」
「さっきのは仕事ですから。頼まれたことは迅速に、無駄を省いて的確にをモットーとしてまして。それに、日付を伝えるのに、言葉を尽くす余地がないでしょうに。」
どちらが本当のことなのだろうか。稲葉君は、丁寧に見えて意外と適当なことを言っているときもあるというのはこの短い付き合いから、なんとなく分っている。個人的にはモットー云々はうそぶいていて、後半に言っていたことが本当のことだと踏んでいる。
稲葉君からの情報を受け取って、生徒会室の前に足を運んでいた。相談内容は、勉強で分らないところがあるというものだ。単純だが、こういうのは単純な方が嘘がばれにくくて良いはずだ。
相談内容の確認も終わり、覚悟を決めて生徒会室に足を踏み入れた。
生徒会室に入って、一番奥の椅子にその少女は腰掛けていた。白雪有栖。ぱっと見の印象はただただ白い。髪も白ければ、肌も白い。聞きかじりだが、アルビノのという難病が思い浮かぶ。透明感のある美少女で本当にそこに居るのかを疑ってしまうほど存在が希薄だった。
「失礼します。」
「おや、君は生徒会の役員ではないようだが、先生から何か言われてここに来たのかな?だとしたら、面倒なので僕は生徒会室にはいなかったと伝えてくれ。」
希薄な存在感とは裏腹によく喋る少女だ。しかも、何か言う前から仕事を放棄する姿勢を見せている。先生からの仕事ではないが、仕事を持ち込みに来たのは確かなので、切り出し辛い。しかし、ためらっていても一向に状況は進まないので、意を決して相談内容を伝える。
「いや、先生からの用事というわけではないんだけど、ちょっと相談事があって、生徒会って生徒からの相談を受け付けてるって聞いたから。」
そう言うと、白雪さんは少し驚いた顔をして、すぐに露骨に面倒そうな顔をした。
「確かに、生徒会には生徒からの相談事を受け付けるという仕事があったようだが、少なくとも僕が会長に着任してからは、一度だってそんなことは無かったから驚いたよ。」
皮肉や嫌みを混ぜたように、答えを返してきた。言外に、こんな形骸化したサービスを本当に使う人がいるなんて信じられないと言われた気分だ。
確かにその意見に関しては俺も同感だ。相談事なら、先生や友人に持って行くのが一番だろう。先生や友人にすら相談できないことを、どうしてよく知りもしない生徒会の人に話せるだろうか。この学校で、そこまで生徒会を頼りにしている人がいるかと言われれば、まず間違いなくいないだろう。しかし、そんなもっともなことを受け入れて、すごすごと退散しても目標には一歩も近づけない。今は、無知で純真な生徒会を頼る生徒を演じなければ。
「そ、そうなんだ。はじめてなんて光栄だな。それで、勉強してる最中に分らないところがあったんだが質問しても良いか?」
「生徒からの相談事には答えてあげたい気持ちは山々なんだが、生憎と今は手が塞がっていてね。」
…イラッという気持ちが心の底からわき上がる。手が塞がっているなんて言っているが、こちらには机に寝そべっているようにしか見えない。
「あー、机に寝そべっているようにしか見えないなんて言ってくれるなよ。これでも僕は、考えなければならないことが山ほどあってね。仮にも生徒会長だから、存外に忙しいんだ。」
こちらが否定の言葉をあげるよりも早くに、それらを粉砕する。ここまで来ると、最早病的な面倒くさがりである。個人的に言わせてもらえば、こんな会話を続ける方が、勉強を見てやるよりも遙かに面倒な気がするのだが。
しかし、こうまで取り合ってもらえないとは困ったことになった。本当に、彼女に用事があるなら、別日に改めようという気にもなるが、そうでもなさそうなので、もう少し粘ってみることにする。
何か現状を打開策する策は浮かばないものかと、頭を回転させた。
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