第11話 昼休みと情報収集
残っている少女は4人。その中でも、佐藤真奈美に関しては後回しでも良いだろう。前の世界で佐藤と仲良くなったのは7月くらいだし、あの時の何の事情も抱えておらず、誰かと仲良くなろうと考えてすらいなかった状態でも、そこそこ仲良くなれたのだ。また、ある程度仲が良かったから。佐藤のことについてはそこそこ詳しい。仲良くなるハードルは他の人と比べて随分と低いことに間違いは無いはずだ。
前の世界で告白されたことを思うと、胸が痛むが、あの世界の佐藤とこの世界の佐藤は違う。この世界の佐藤は俺のことを好きなわけでもないし、好きになるとも限らないのだ。それに命がかかっている以上、自分の事情を優先して行動するわけにもいかない。優先順位は、必ず必要になってくる。
次に、優先順位が低いのは、如月花だ。理由は単純に同じクラスだから。同じクラスだから簡単という話でもないが、別クラスの2人に比べれば関わる機会が多いのは間違いない。そのため、今重要視しなければならないのは、白雪有栖と、早乙女雫の2人だった。
後は、どちらから先に攻略するかだが、考えているのは白雪有栖だった。彼女はこの学校の生徒会長だ。生徒会長と言っても、絶大な権力を持っていたりするわけでもない。それどころか、この学校の生徒会なんて正直何やってるのかよく分らないくらいだ。そんな生徒会長である白雪有栖に狙いを定めたのは、多少強引ではあるが関わるきっかけがないこともないからだ。
この学校の生徒会の仕事の1つに、生徒からの相談を受け付けるというものがある。あまり知られていない上、ほとんど誰も利用しない形骸化したサービスであることに違いないが、一応誰でも使える。これを利用すれば、生徒会長である彼女と直接話をする機会は生まれるだろう。問題は、生徒会室に彼女しかいない日を把握する必要があるということだ。噂では、生徒会長である彼女は、生徒会室を半ば私室のように利用しており、放課後はそこに残っていることが多いらしい。
ただ、問題の他の生徒会役員の行動が分らない。相談をしにいったら他にも生徒会役員がおり、彼女ではなくその役員に対応されてしまっては失敗だ。何度も相談を持って行って下手な鉄砲を何度も撃ってみても良いのだが、それはそれで不信だろう。相談は建前で生徒会長にお近づきになりたいなんていう下心を感じ取られてしまえば、挽回不可能だ。となると、1回で当たりの日を引くことが理想で、そのための下準備としてするべき事は、とそこまで考えたところで授業終了を示すチャイムが鳴った。これから昼休みに入ることを示すチャイムでもある。
この時間に下準備を済ませてしまおうと、チャイムの音が鳴るなり席を立った。
その男は、自分の席で、教科書を片付けていた。その後ろ姿に声をかける。
「稲葉君、今ちょっと良いかな?」
「…涼風さんですか。構わないですが、話なら購買でパンを買ってからでも良いでしょうか。」
「全然良いよ。あまり知られたくない話だから、購買部近くの空き教室で話がしたいんだけど。」
「わかりました。パンが購入でき次第向かいます。」
短い会話を終えて、稲葉君は教室を出て行った。俺は、元々昼ご飯は食べたり食べなかったりなので、今日は食べないことにした。
空き教室で待っていると、稲葉君がパン片手にやってきた。
「遅くなってしまって申し訳ありません。思っていたよりも混んでいて。ただ、このメロンパンが残ってたのは幸いでした。涼風さんは食べたことありますか、このメロンパン?」
「食べたことあるよ、おいしいよな。」
「ええ、とてもおいしいです。それで、あまり聞かれたくない話というのは何でしょうか?」
「簡単な話だ。生徒会役員が、生徒会室に行く日を把握したい。具体的には、生徒会長が生徒会室で1人になる日を知りたい。」
単刀直入にお願いした。稲葉君の能力なら、生徒会役員全員と話をして、生徒会室に行く日を全員分個別に自然に聞いて回ることも可能だろう。一応自分でも放課後に生徒会室の前で張り込んで、生徒会長しかいないタイミングで相談を持ち込むことも可能だが、後から他の役員が入ってきても面倒なため、より確実性の高い手段に頼ることにした。
「なるほど、その頼みなら、僕にもできることですし承りましょう。ただ、野暮な質問になってしまうのですが、それは何のためですか?」
「生徒会長と仲良くなることが必要だからだ。」
「…必要ですか。僕のように力を借りたいわけではなく、仲良くなることが必要だと?」
「その通りだ。」
質問には、正直に答えた。これに関しては、誤魔化しようがない。生徒会長と一対一で会話をしたいなんて、それは生徒会長自体に目的があると言ってるようなものだ。
「ええ、ええ、分りましたとも。涼風さんの事ですから、何か理由があるのでしょう。その理由がただの下心でないことを祈るばかりですが。」
「ある意味、下心しかないと言えなくもないけど。」
「どちらでも構いませんよ。涼風さん、約束は覚えていますよね。僕にとって重要なのは、涼風さんが腹の底で何を企んでいるのかということではなく、涼風さんが行動して起こった出来事の方ですから。どんな結果であれ、僕に報告してくれる助かります。」
「話せる範囲でな。」
そう言うと、稲葉君は納得を示すように大きく頷いた。おそらく稲葉君はこういった形で校内の情報を集めているのだろう。情報を渡す対価に情報を得る。何のために、そんなに校内の情報を集めているのかは分らないが、俺の目的とは関係ないため、興味も無い。俺は、話が終わったので、席を立って、空き教室から出ることにした。最後に念押しとして一言声をかけた。
「できるだけ早く頼む。」
「ええ、分りました。どうです、たまには涼風さんも僕と一緒に食事をしませんか?カフェでも先に帰ってしまわれましたし。案外、学校のことで話が弾むかもしれませんよ。」
「ありがたい申し出なんだが、また食事があるときに頼むよ。今日は金持ってくるの忘れて、昼食抜きなんだ。」
昼食抜きなのは本当だが、金を持ってきていないというのは嘘だ。そんな答えを聞いても、稲葉君の方は気にした風もなく、すぐに携帯に目を落としていた。聞いてみただけだったのだろう。俺もその様子を一瞬目に入れて、空き教室を後にした。
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