第36話
黒板裏の隠し部屋を後にして、僕らは二階の理科室へ向かう。
「二階は危険じゃなかったのか?」
「もう地縛霊が出ても落ち着いて対処できるでしょ」
四季さんのお墨付きを貰い、僕とキョウは二階に向かう階段を行く。二階の踊り場の隅に二人の子供のような何かが屈みこんでいたが、四季さんはそれを無視して上がる。きっと四季さんも気づいているはずだし、これは故意に無視したのだろう。立ち止まって凝視するだけが対策ではないと知り、頭の片隅に置いておこうと思う。
職員室のあった側の校舎を上がってすぐに理科室は発見できた。そして、隠し部屋の入り口もすぐに分かる。
「そこの壁が剥がされてる所が入り口?」
「ええ。そうよ」
木張りの壁が剥がされ、周囲に木片が散乱している場所。そこが第三の隠し部屋の入口だった。近寄ると錆びのような臭いが鼻を突く。何とも不快な臭いだ。
扉も無いその内部は、やはりと言うべきか窓も無く、ライトで照らさなければ内部を確認できない。
キョウは鞄から懐中電灯を取り出す。先ほどのハンマーといい、随分と準備が良い。いや、僕が考え無しなだけだろうか。しかし、キョウが色ボケせずにしっかりと調査をしてくれている事はありがたい話だった。
「……何だこれは!?」
中を照らして覗き込んだキョウは、驚愕の声を上げる。好奇心に駆られて、僕も一緒に覗き込む。
中は人一人が両手を広げる事もできないような、幅の狭い部屋だった。しかし、その奥には何か杜のような鉄製の棒が大量に立て掛けてある。
僕らは中に入ってそれをまじまじと観察する。錆の臭いがより一層強まり、その発生源は目の前のモノ以外考えられなかった。
「これが何であるかは分からないけれど、これって所々に穴が空けられているのよね。ほら、こことか」
四季さんは棒を指さし説明する。
「……他の棒が丸々通りそうな大きさだな。お、こっちのには穴が空いてない。なんだか組み立てられそうな造りだな」
「組み立てたら格子状になりそうだね」
僕は思った事をそのまま口にした。すると二人は僕を見る。
「……日記の部屋には鉄格子が無かったか?」
日記の記述については、僕はうろ覚えなため、キョウの言う事を鵜呑みにするしかない。あまり良い気はしないが、一度部屋に置いてきた日記を改めて読む必要があるかもしれない。
「えーっと、これって取り外し可能な簡単座敷牢セットって事なのかな?」
「何そのネーミング」
四季さんに笑われて少しムッとするが、どうやらキョウも同じことを考えていたらしい。
「下の職員室には、誰かを閉じ込めておくような隠し部屋があっただろ。ああいう場所で使われていたものだとしたら、この資材置き場が上階の近い場所にある理由にも合点がいく。もしかすると、例の日記の部屋もこの近くにあるかもしれないな」
あくまで仮説の域を出ないが、確かにキョウの理屈も分かる気がする。少しだけ調査が進展したという事だろうか。だが、自分で言いだした事とは言え、あくまで仮説の域を出ないとも思う。キョウの言葉ではないが、あまり目先の情報だけで結論に飛びつくのは危ない気がする。
その後、他にもこの部屋に何か無いかと、キョウはしきりに壁や床を叩いたり、杜のような物を退かしてその裏を調べたりしていたが、結局何も見つかる事は無かった。
黒板裏の隠しスペースもからも大した情報は得られなかったし、隠し部屋はただ不気味なだけで、そこまで多くの情報が隠されている訳ではなさそうだ。
「……いったん引き上げるか」
始めこそキョウの調査を真似て、自分なりに何かないかと探していた僕と四季さんだが、結局何も見つからず、飽きて廊下に出てキョウを待っていた。そんなキョウもようやく諦めたらしい。
僕らは一旦外に出る事にして、下の階に降りようと昇降口を目指す。しかし、途中で廊下を封鎖するほど巨大な地縛霊に遭遇した。
四肢が植物のようになったそれは、辺り一面にツタを絡ませ、正しく僕らを通せんぼするように存在していた。一体何をどうすれば、死後このような異形の形で地縛霊になるのだろうか。それとも、そもそもこれらは元が人間ではなく、何か別のものが人間の振りをしているだけなのかもしれない。
その存在から距離を取った位置で、全員が無言のままそれを見つめる。二人はこの時間に一体なのを考えているのだろう。
しばらく待って、ようやくそれが薄らと透けるように消えてゆく。あれほどの存在感を放っていた物が消えるのは、どういう理屈なのだろう。そもそも、本当に存在しているのだろうか。僕らが見ている幻覚のようなものだと考えた方が、まだ納得できるかもしれない。
外に出ると、ようやく安全な場所に来たのだという安堵感から、力が抜ける。僕らは校舎から距離を取った場所で、午後の作戦会議を兼ね昼食を取る事にする。
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