第29話
「ねえ、一体どういう風の吹き回しなの?」
僕は深緑第一中学に向かう電車の中、サクラさんにそう問いかけた。もちろん、どうして僕らについて来ようと思ったのかの質問だ。
オカ研に行っている間に、一体どのような会話が三人の間で交わされていたのか、僕は知らない。ここまでの間にキョウに聞いてみたが、四季さんとキョウに放課後何をするのか聞かれ、廃墟に向かう事を告げると、一緒に行くと言い出したそうだ。
「気が変わったの。今日はバイトも休みだし、ちょっとぐらい付き合ってあげてもいいかなって思ったの」
彼女は四季さんとキョウの方をちらちら見ながらそう言った。サクラさんらしいと言えばらしいが、なんとも下手な言い訳である。
「嘘だね」
「……」
僕が小声で言うと、サクラさんは黙り込む。少し直球過ぎただろうか。何とも険悪なムードの中、時間が過ぎて、電車は件の駅へと到着する。
四季さんとキョウが立ち上がって駅のホームへと降りる。僕がその後に続くと、電車を降りながらサクラさんが僕に耳打ちをした。
「四季さんがどうやって二人をたぶらかしたのか、確かめてやる」
なる程と納得する。彼女なりに僕等のことを心配して付いてきてくれたのだ。
僕とサクラさんは電車を降りて、先を行く四季さんとキョウを追う。
「飲み物買っておいた方がいいぞ」
キョウが駅前の自動販売機に小銭を入れながらサクラさんに言う。これもキョウなりの気遣いだが、彼女はその言葉を無視する。
当然の事ながら、深緑第一中学に向かうまでの田舎道は昨日と変わらぬ景色であった。けれども僕は、どこか遠足の道なりのような浮ついた心持でその道を歩む。この先に待っているのは、地縛霊が現れる伏魔殿というのに。一度通った道だからなのか、それとも昨日とはメンバーが違うからだろうか。
四季さんとキョウは少し先を歩いて、何やら話し込んでいる様子だ。向こうの会話の内容は聞こえてこないが、それはつまりこちらで話している内容も聞かれないという事だろう。
「サクラさん。ここまで来てもらって言うのもアレだけど、帰った方がいいかもしれない」
僕は昨日の体験を踏まえて、サクラさんの身を案じ助言する。昨日は何とか助かったが、あんな怖い思いをサクラさんにしてほしくなかった。
しかし相反する気持ちになるが、もしもサクラさんが協力してくれるならば、それも心強いとも思う。
「帰らないよ。なに、私に見られたくない事でもあるの?」
「そっ、そんなことないよ」
僕は思わず声が大きくなってしまい、前を歩く二人が振り向く。
「どうかしたのか?」
「何でもないよ」
キョウも四季さんも、僕らの会話なんてどうでも良いといった様子で話しを再開させる。
「ねえ、この先には何があるの?」
「……行けば分かるよ」
「はぐらかさないでよ。行けば分かるのなんて、当たり前じゃん。その前に何があるか知りたいから聞いてるの」
サクラさんの反論は最もだ。しかし、正直に答えた所で信じてくれるとは思えない。それこそ、僕とキョウだって事前に地縛霊の話を聞いていたとしても、一笑に付して終わっていただろう。
「ねえ、何とか言ってよ」
「……分かったよ」
僕は笑われる事を覚悟の上で、自分の知っている事を話した。地縛霊の事。それに襲われた事。それらの異常な存在を目の当りにして、日記の呪いにも信憑性があるのではないか、と僕は考えるようになった事。
サクラさんは黙って僕の話を聞いてくれていた。途中で笑ったり、バカにしたり、ましてや付き合いきれないと踵を返すような事は無かった。
そして、話が終ると僕の肩を軽く殴った。
「それじゃあ、まずはその地縛霊ってのから確認してやろうじゃないの」
「……信じてくれるの?」
「いや、信じないよ。そんなの居るわけないじゃん」
そうだよな、と僕は肩を落とす。黙って聞いてくれていた事に、少しばかり期待していたかもしれない。しかし、逆にこんな話を真に受けるような人は、悪い人間に騙されそうで、それはそれで嫌かもしれない。
「でもさ。昨日は四季からそんな感じの話を聞かされたけど、ユウ君から聞くのではやっぱり違うじゃん。信じはしないけど、友達が言うのなら私も心配になるわけよ。ましてやユウ君もキョウもバカじゃないんだし」
サクラさんはそう言って僕の少し前へと歩みを進める。恥ずかしい言葉を言ったと自覚があるのだろうか。
しかし、僕の心は少しだけ軽くなる。サクラさんに心配をかけて申し訳ない気持ちもある。この先、どうしてよいか分からないが、彼女だけは絶対に守る。僕が巻き込んでしまったのだから、危険な目に遭わないよう、できる限りの事をしよう。
そう決意を抱いた時には、目の前に深緑第一中学の廃校舎がそびえ立っていた。
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