第25話


 サクラさんとの友情が崩れ落ちた後で、ジンが登校してくる。僕が声を掛ける前に、サクラさんがジンを捕まえて何かを話している。きっと僕らの事だろう。


 すぐにジンが僕らの元へやって来る。四季さんの顔を見るなり、怪訝そうな表情を浮かべていた。


「サクラから聞いたが、お前ら四季とつるむのか?」


「連むといえば連むのかな。一緒に日記の部屋を探す事になったんだ」


 僕は答えながら、ジンが無事に登校してきた事にひとまず安堵していた。


「四季静の話は与太話ではないかもしれない。あの日記の部屋を見つける事ができれば、多々良摩耶を助ける事にもつながる。何より、俺たちの身に危険が迫っている以上、あの部屋を見つける事は急務だ」


「まさかあのキョウが、オカルト紛いの話を信じるとはな……」


「オカルトだろうが何だろうが、自分の目で信じるに足る証拠を目の当りにすれば、俺は現実を受け入れるぞ。それで、ジン。お前も部屋を探すのを手伝ってくれないか?」


 ジンは心底面白くないという表情で、首を横に振る。


「俺はパスする。お前らだけでやってろよ。俺は今日、杵築目のヤツにマヤの家を知らないか聞いてくる。知っているか知らないかは関係ない。ただ、俺がそうしたいからそうするだけだ。キョウがマヤの事を心配している気持ちは嬉しいが、もっと現実的な方法でアイツの事を考えてやれよ」


 ジンも自分の席へと戻ろうとする。正直なところ、ジンの言っている事の方が正しいと思う。間違っているのは現実の方のような気がしてならない。


「ねえ、今日はトノには会った?」


「……さっき校門前で会ったぞ。日記に攫われた訳じゃないから安心しろ」


 ジンは馬鹿にしたように冗談めかして言い、僕らの元を離れた。どうやらトノも無事らしい。昨晩、僕の友達の中では行方をくらました人は居ない様だ。


「なんだか思ったように仲間が集まらないわね。あなた達、本当はあまり仲が良くないのかしら?」


 誰のせいでと言いかけるが、ぐっと堪える。今この女との関係を悪くしても、何も良い事は無いと考えたからだ。


「それで、今日の放課後だけれど、またあの廃墟に一緒に行ってもらえないかしら? あの地縛霊たちに対処できるよう、練習してもらいたいし。あと、部屋の捜索も並行して始めていきたいわね」


「そうだな。俺たちには後どれくらい時間が残されているのか分からない。早急にできる事はやって行かなければ」


 キョウはそこまで理解していながら、どうしてこれほど落ち着いていられるのだろうか。


「あと、日記の所在も確認しなきゃいけないよね。休み時間に西成田さんに聞いてみるよ」


 僕は横目で西成田さんの方を見ながら言う。彼女は倉田と話をしていた。今確認しに行っても良いのだが、もしも僕があの日記の事を気に掛けていることを倉田が知れば、一体どのような嫌がらせが待っているか分かったものでは無い。


「そういえば、あの二人も日記を読んでいたわね。勧誘に行きましょうよ」


「お前は馬鹿なのか? 昨日も言ったが、俺はこれ以上仲間を増やす気は無いぞ」


「あら、その割にはお友達には積極的に協力を依頼してくれたじゃない」


 キョウは「ふん」と鼻を鳴らして黙り込む。僕は彼の思惑について、少し察することが出来た。


 わざと直球の言い方をすることで、サクラさんやジンに警戒心を抱かせ、距離を置くように仕向けたのだ。キョウの頭なら、もっと二人が引き込まれるような言い方が出来たはずなのだ。それをあえてしなかったのは、僕以外の仲間を地縛霊のような危険な存在から遠ざけるためなのか、或いは別の狙いがあるのかは分からない。


「そういえば、日記を持ち出したグループは三人組だったわよね。今日は一人足りないみたいだけれど。確か名前は……岡田綾子さんだったかしら」


「……確かにそうだね」


 倉田と西成田さんと岡田の三人は、うちのクラスの女子問題児三人組だ。いや、個人的には西成田さんは変わり者なだけで問題児ではないと考えているが、この三人に絡まれて面倒な事になったクラスメイトは何人かいる。そんな連中の手に、あの危険な日記が渡ってしまったのだから、よく考えてみればとんでもない事だ。


 倉田なら、あの日記の内容を写真で取ってネットに上げるような真似を平気でするだろう。そうなれば、多くの人がギシガシのターゲットとなってしまう。現に、もうあの日記は人の手に渡ってしまったのだ。人から奪った物を別の人に渡してしまうなど、倉田の倫理観は一体どうなっているのだろう。


 始業のチャイムが鳴ったので、僕らは話を切り上げて各々の席に座る。結局、岡田が登校してくることは無かった。ただの風邪か何かで休んでいるだけなのか、或いは別の理由か。


 僕にはその別に理由に心当たりがあり、ゆえに心苦しくも思うのだった。

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