第14話
「……助かる方法だって?」
「そう。あなた達は今とても危険な状況にあるわ。あの日記を少しでも読んだのなら、今夜にもギシガシはやってくるかもしれない。でも大丈夫よ。私に協力してくれるなら助かる術はあるの」
「ふん、くだらない。強迫から自分の要求を通そうとするのは、三流の詐欺師の手口だ。ギシガシが夜に襲ってくるだって? バカバカしくて聞く耳も持たない。俺たちに何かをやらせたいなら、もっと現実的な嘘をつくんだな」
キョウはその場を離れようとする。この行動が何かの駆け引きなのか、或いは本当にバカバカしくて付き合いきれなくなったのかは、僕に判断できない。
「多々良摩耶さん、だったかしら? 彼女を助けられるかもしれないと言ったら、もう少し私の話に付き合ってくださるかしら?」
緊張が走る中、キョウの足が止まる。振り返って四季さんを仇のように睨みつける。
「……続けろよ」
「あら? それが人にものを頼む態度かしら?」
まるでこの場の支配者は自分であると驕った態度を取る四季さんの机をキョウが叩く。
「あまり調子に乗るなよ。俺たちはお前に教えを乞うているんじゃない。俺たちがお前の話を聞いてやっているんだ。洗いざらい話したうえで感謝しろ」
「うわ怖。まあいいわ。私も協力者の選り好みがでいる状況ではないですし」
四季さんは咳払いをしてから話を始める。
「あの日記を読んだ人が助かるには、あの日記の書き手の幽閉されていた部屋を見つける事。それしか道は無いわ」
「……根拠は?」
「私が前に居た学校にあの日記を持ち込んだ人が言っていたの。その人は随分と前にギシガシが連れて行ってしまったけれどね」
「信用ならないな。お前にそれを伝えたヤツも自分が助かりたいからと妄言を吐いた可能性もある」
「そうかしら? ほら、日記にも書かれていたじゃない。私を見つけてって」
キョウは「確かに」と頷く。どうして手元にあの日記が無いというのに、そんな言葉が書かれていたと断言できるのだ? この二人はあれの内容を一字一句覚えているとでもいうのだろうか。
「いや、あの日記の内容もどこまで信用できるか分からない。仮にお前の妄言がある程度は事実であったとしても、あの日記の書き手が俺たちを呼び寄せるために張った罠という可能性もぬぐえない」
「ここまで話して協力する気にならないのなら、もう好きにすればいいわ。でも考えても見なさい。ギシガシが連れて行った人とあの日記の書き手は友達になるのよ。つまり、この部屋を見つけられれば連れ去られた人を助ける事が出来るかもしれない。アナタたちの友達の多々良摩耶さんもね」
「……」
この言葉はキョウに効果的だったらしく、彼は反論の言葉を飲み込んだ。
「私の要求はただ一つ。この日記の書き手が幽閉されていた部屋を一緒に探してほしいの。前の学校の友達とも一緒に探していたけれど、結局頭数が無くなって……最後に残ってた友達も一昨日消えてしまった。今なら私の友達も、アナタたちの友達も助けられるかもしれない」
教室に残っていた生徒たちはいつの間にか姿を消していた。きっと僕達の雰囲気がただ事ではないと察して、好奇心よりも身の安全を案じての事だろう。ここから移動した生徒で、今日の図書室は大賑わいかもしれない。
「ふん。友達を助けられるかもしれないと言いながらも、結局は俺たち自身の身の安全を人質に協力を要求しているんだから質が悪い。こっちがお前の本命だろう?」
「ええ、もちろん。自分の身に危険が迫らなければ、本気で部屋を探してくれないでしょう?」
四季さんは笑みを返す。その笑みにため息を返したのは、キョウではなくジンだった。
「悪りい。俺もう付き合いきれねぇわ」
そう言って楽器ケースを抱えて教室から去ろうとする。
「おい待てよ。まだ聞いていない話は……」
「いやいや。キョウはコイツの話を信じるのかよ。どう考えてもおかしいだろ。要はあの日記を読んだ奴はギシガシとかいうバケモノに連れ去られて、その部屋とやらを探さないと助からないし助けられないって事だろ。漫画でも、そんな無茶苦茶な話ねぇよ」
「同感ね。私たちの目的はマヤちゃんの行方の手がかりを見つける事で、そこのおかしな女の妄想を聞くことじゃないわ。これなら同じ中学の杵築目君にマヤちゃんの家を聞きに行った方が、まだ建設的よ」
トノも楽器ケースを背負いジンの後を追う。まあ、二人は部活があるのだから仕方がないかもしれない。
「ごめん、私も帰るわ」
「サクラさんまで……なんで?」
「あのねぇ……逆に聞くけど、なんでこれ以上話を聞くの?」
そう言って手提げの鞄を持ち、どこか侮蔑交じりの視線で僕らを一瞥して教室の外へ出ていってしまった。
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