第13話
ホームルームが終り放課後になる。今日は五限の数学と六限の英語で宿題のプリントが配布されたためか、数人の生徒が早々に終わらせてしまおうと居残りでそれらに立ち向かっていた。
「なあ、四季静。少し良いか?」
キョウはさっそく四季さんの元へと向かっていた。遅れて僕とサクラさん、ジンも彼女を取り囲む。
「ちょうど良かったわ。私も貴方達とお話したいと思っていたの」
彼女は僕らを笑顔で出迎えた。僕達と話をしたいというのは本心から出た言葉だろう。むしろ帰り支度をしていない所から、彼女の方から声を掛けてきていた可能性すらある。
「お前の前の学校での話を聞きたい。何十人もの生徒が行方不明になったらしいな」
「あらあら調べちゃったの? そんなに私に興味を持ってくれるなんて嬉しいわ。もしかしてストーカーさんだったりするのかしら?」
サクラさんが露骨に「うわぁ」と嫌そうな顔をする。確かにこれは僕から見ても気持ちが悪い。
「あまりふざけた事を言うな。俺の質問にだけ答えていればいい。……失踪事件があったのは本当の事なんだな?」
「ストーカーの次は束縛かしら? ええ、確かにそうよ。私の友達もこの前に居なくなってしまったしね。それで?」
トノが楽器ケースを背負って教室に入ってきた。彼女は僕たちを見つけて傍に寄って来る。キョウはトノが来るまで待ってから言葉を続けた。
「……お前は失踪した原因について知っている。そうだな?」
「どうしてそう思うのかしら?」
「友達が失踪したと話していた時に、警察がいくら捜査しても無駄だとかほざいていただろう? これで何も知らないとか、そんなふざけた話はないよな?」
四季さんはニヤニヤ笑みを浮かべる。
「単純すぎる推理だわ。あくびが出てしまいそう。……ええ、ご明察。私は失踪の原因を知っているし、失踪した人たちの共通点も知っている」
「そうか。それはありがたいな。では聞くが、今日失踪した多々良摩耶はその共通点とやらに当てはまるのか?」
これはとても重要な問いだと感じ、僕は唾を飲み込む。もしも彼女の言う共通点にマヤちゃんが当てはまっていなければ、彼女の身が無事な可能性が高まる。
「あら? この学校から失踪者が出たという話はニュースや全校集会で知っているけれど、それが多々良摩耶さんという名前だったなんて初耳だわ」
「あまりはぐらかすな。俺はそう気が長い方じゃない」
「そう……残念だけれど、私はその多々良さんの事を知らないから、失踪の条件を満たしているかは分からないわ。でもそうね、あなた達と仲が良ければ可能性は高いと思うわ」
「……やはりあの日記か?」
四季さんの口角が上がる。白い肌に血色の悪い唇でそんな表情をされては、まるで妖怪のようだ。
「ご明察。昨日の朝、城川君の机の中に有ったあの日記を少しでも読んだ人は失踪する可能性があるわ」
その言葉を聞くや否や、ジンが四季さんの胸倉をつかんだ。
「あの日記はテメェの物だな!」
「ちょっとジン!」
騒ぎが起こったと何人かの残っていた生徒が僕らの方を見る。このままでは先生を呼ばれてしまうかもしれない。僕はどうにかしなければと思いながらも、有効な打開策が思いつかず、勉強していたクラスメイト達の方を見て曖昧に微笑んで見せた。
「だってそういう事だろう!? こいつの前の学校でも失踪者が出ていて、今はこの学校にあのノートがあった。って事はこいつが持ち込んだって事だ。バカな俺でもそれぐらいは分かるぞ」
「待てよ。他にも聞きたい事は色々とある」
キョウが窘めて、ジンは舌打ちしつつも四季さんから手を離した。
「あら嫌だわ。急に女性の胸に触るなんて、お盛んだ事」
今度はトノが四季さんの髪を鷲掴みにして声を荒げる。
「うちの彼氏を馬鹿にしていいのは私だけなんだけど。そこんところ弁えなさいよ」
トノは四季さんの頭を机に叩きつけるような素振りで手を離した。
「……話を続けるぞ。あの日記に書かれている事は本当なのか?」
「さあ、それは知らないわ。私の前の学校にも、転校生が持ち込んだものだったし。でも日記を読んだ人の所にはギシガシがやって来て、連れ去ってしまう事は本当よ」
「ギシガシって何?」
僕が尋ねると四季さんは僕の方を向く。黒い漆黒の瞳に見入られて、なんだか嫌な感じがする。
「ギシガシが何なのかは分からない。でも、アレは普通じゃないわ。大きなブリキのおもちゃみたいな見た目で、両腕に刃物が付いたものが突然現れるの。それは日記を読んだ人にしか見えなくて、その日記を読んだ人を切りつけて動けなくなったら腕に抱えられて霧のように消えてしまう。切り付けられた人諸共ね」
「……非現実的だな」
「私が嘘を言っているとでも?」
キョウは少し間をおいてから言葉を続けた。
「お前の話で信じられそうなのは、あの日記を読んだ人間が謎の失踪を遂げるという所までだ。その先のギシガシについては信じられないな」
四季さんは「そう」と素っ気なく返事を返す。しかし、僕は彼女の話が聞き捨てならなかった。
「ちょっと待ってよ。今の話だと、あの日記を読んだ僕達も危ないって事だよな?」
皆が沈黙する。それは僕の言葉を理解していない沈黙ではなく、理解したがゆえに言葉を失った沈黙だった。
四季さんがニヤリと笑う。
「やっと自分たちの状況を理解したようね。それじゃあ、ここからが本題。助かる方法があるんだけど、興味ないかしら?」
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