第41話 日劇衣装室より出陣!
出演者(イメージキャスト)
大川周明氏(疾患者) 役所広司
堀田善衛(疾患者・元新聞記者)
岡田 滋(疾患者・元准尉) 中村獅童
肥田春充(体育家・周明の親友)
杉浦誠一(疾患者・元従軍画家) 柄本 明
山田欣五郎(性同一性疾患者・元海軍兵)
首藤操六(疾患者・元参謀副長) 石橋蓮司
村瀬源太郎(巡査・GHQ本部付け)
川口六郎(日劇衣装部主任・元陸軍上等兵)
女 (日劇通用門受付係り)
数着の衣裳がハンガーに掛っている。
ハンガーには、各「役割の札」が下がっている。
川口「時間が無いから急いでッ! え~と、杉浦さんはどなた・・・?」
杉浦「はい! 僕です」
川口「あッ、アナタね」
川口は杉浦を舐めるように見る。
川口「アナタは・・・画家(杉浦誠一)ね。はい、これッ! 着て見て」
杉浦は急いで着替える。
川口「それと、首藤さんは?」
首藤は妙に気合の入った返事で、
首藤「ハイッ!」
川口「首藤さんは、・・・これね。帝大の教授(首藤操六)。品良く着てちょうだい。学者サンなんですから」
首藤「ハイッ!」
川口「その軍隊調の返事はやめてちょうだい。アナタ、教授よ」
首藤「あッ、ハイ・・・」
川口「早く着替えてちょうだい」
首藤が急いで着替える。
川口「岡田さん?」
岡田「俺だッ!」
川口「オレ?」
川口は岡田を睨む。
川口「俺はやめてちょうだい。服屋さんなんだから。え~と、岡田さんはテーラー(岡田 滋)の役。はい、これ」
岡田「これ? これが、・・・俺?」
川口「そう。良いから早く着替えてッ!」
岡田は渋々着替える。
川口「肥田さんは?」
肥田「あッ、私だ」
川口はチラッと肥田を見て、
川口「素敵な体格ね・・・。はい、これ。運送屋(肥田春充)さん」
肥田「家具屋じゃないのか?」
川口「運ぶんでしょう」
肥田「うん? ・・・まあ」
川口「早くしなさい。次、堀田さん」
堀田「急いで下さい。時間が無いですよ」
川口が怒って、
川口「うるさいわね。分ってるわよ。堀田くんはプレス(堀田善衛)。毎朝新聞の記者ッ! これ、着てみて」
堀田は急いで着替える。
川口が着替えた堀田の姿を見て。
川口「ワ~、アナタが一番似合うわ。素敵ッ!」
川口は熱い視線を堀田を見る。
山田を見て川口が、
川口「え~と、次はー・・・山田さんね。はい、これッ! 喫茶店のママ(山田欣五郎)」
山田「何これ・・・。このスカート、全然センス無いわ」
川口「良いから、早く着替えなさいッ!」
山田は渋々スカートを穿く。
川口「あッ、アナタ、化粧品はお持ち?」
山田「そんの持って来ないわよ。アナタの貸して」
川口「アタシはしないわよ。・・・あッ、隣の化粧部にユミちゃんて云う人が居るわ。急いでメークしてもらいなさい」
山田「ユミちゃん?・・・分った」
川口は七人を見て、
川口「以上かしら。・・・あら?」
川口は周明氏のワイシャツとズボン姿を見る。
川口「先生は、その格好で?」
周明「何か有りますか?」
川口「そうね~。このヤンキーのジャンパーとズボンなんか良いんじゃない。着て見て」
周明氏は急いで着替える。
川口は着替えた周明氏を見て、
川口「良いじゃな~い。素敵ッ! そうだッ、先生はハワイ出身の通訳(大川周明)って役どう?」
周明「おお、良いねえ。それで行こう」
川口「はいッ、イッチョ上がり! 皆んな、頑張ってちょうだいよ。日本人皆んながアンタ達の事、見てるんだから」
七人「はい!」
周明「さあ、行こうッ!」
川口「いってらしゃい」
堀田「あッ、山田さんがまだ・・・」
肥田「またか。世話の焼けるオトコだ」
堀田「いや、オンナです」
山田が化粧室から出て来る。
山田「ゴメンなさい。ど~お?」
山田が化粧済の顔を皆んなに見せる。
周明「!? ・・・分った。早く行こう」
川口「あッ、待って! 大切な物。これ村瀬さんから預かってるの」
川口は七枚の『通行許可証』を各人に渡しながら、
川口『本当に頑張ってよ。日本人の将来が懸かってっるんだから」
首藤は川口に挙手の敬礼をして、
首藤「はいッ! 行きますッ!」
川口「ちょっと~、それヤメテちょうだい。特攻隊じゃないのよ。分っちゃうわよ」
首藤は気合の入った声で、
首藤「失礼しましたッ!」
川口は呆れた顔で首藤を見て、
川口「バカッ」
川口は周明氏に、
川口「あ、先生ッ! ちょっとそこに全員並ばして。口火を切るわ」
七人「えッ?」
川口「いいから、早くッ!」
川口は神棚の火打石を取り、全員の肩に口火を切る。
川口「ヨシッ! これで縁は切ったわ。いってらっしゃいッ!」
肥田「行くぞッ! 目指すはマッカーサー邸だッ!」
堀田「やめて下さい。忠臣蔵じゃあるまいし」
七人が俳優通路に出て、舞台とは逆方向に足早に歩いて行く。
裏通りに『軍用トラック』が停まっている。
村瀬がトラックから降りて不安そうに腕時計を見ている。
村瀬「・・・何やってんだよ~。時間がねえぞ。ッたく~」
通路を走る七人。
俳優受付の前を全速力で通り過ぎる。
受付の女がそれを見て、
女 「あッ!?・・・チッ、ちょっとお~ッ!」
山田は衣裳のまま振り向いて、
山田「ゴメンなさい。台本忘れちゃった。直ぐ戻るから」
受付の女が「出入者名簿帳」を振りかざしながら大声で、
女 「ここに書いてから出てくださ~いッ!」
七人は逃げる様に走り去る。
待機して居る軍用トラックが見える。
七人が走って来る。
村瀬は焦りながら手招きをする。
村瀬「早くーッ!」
村瀬がトラックの荷台のホロを上げる。
急いで荷台に飛び込む七人。
村瀬「遅いよお。あと十分しか無いんですからね」
周明「すまん。急いで行ってくれ」
軍用トラックが急いで走り去る。
つづく
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