第24話 七人の攘夷?
出演者(イメージキャスト)
大川周明氏(疾患者) 役所広司
西丸四方(周明氏の担当医師) 國村 隼
肥田春充(体育家・周明の親友)
堀田善衛(疾患者・元新聞記者)
西丸「面白そうだ。忠臣蔵か・・・」
堀田はいやな顔で西丸医師を見て、
堀田「やめてくださいよ。今、忠臣蔵なんて書いたらGHQから呼び出されて終身刑になっちゃいます」
西丸「そうだね。ごめんごめん」
周明「で、内容は?」
堀田「戦いに負け戦争に勝つ。七人の元陸海軍特攻兵の攘夷の物語です」
周明「攘夷? 攘夷とは外人を追い払って国内に入れない様にする事だぞ」
肥田「鎖国の小説か? ・・・面白い」
堀田「違いますよ」
西丸「ハハハ。それこそ終身刑になるな」
周明「君は国際文化振興会の上海事務所とやらに居たんじゃなかったのか? どちらかと云うと親米派だろう」
西丸「? 堀田くんはそんな所にも居たのか。それじゃ君の気質に合わないじゃないか。もっとスマートな物に書き改めた方が良いな」
突然、肥田が、
肥田「そうだッ! 七人をこの精神病院の患者にした方が良いんじゃないか? ハハハハ」
西丸「冗談も程々(ホドホド)になさい。ここの患者にそんな事が出来る訳(ワケ)が無い」
肥田「小説だよ。ショウセツッ! 本は売れなくては話にならないぞ。面白い方が良いじゃないか。なあ、大川君」
周明「? う、うん。まあ、それは、そうだね」
堀田「ちょっと待って下さいよ。書くのは僕ですからね。場面は僕が決めます。それに脳病患者が攘夷なんて。・・・?」
堀田は話しを止め少し考え、
堀田「でも、・・・それは面白いかも知れないなぞ?」
肥田「だろう。ちょうど奇妙な患者ばかりが入院しているじゃないか」
堀田「奇妙な人とは、どの部屋迄の患者を言うのですか?」
肥田「君の部屋も入っているから心配するな。ハハハ」
堀田が憤慨した表情で、
堀田「失敬ですよ、肥田さんッ! いくら肥田さんでも怒りますよ」
肥田「冗談だよ。気にするな。・・・そうだ! 皆で一緒に丸の内の進駐軍本部に殴り込みを掛けるなんて云うのはどうだろう」
西丸「いい加減にしてくれ。ここは都立の松澤病院だぞ。そんな噂がたったらマッカーサーの赤い革靴の底で踏み潰されてしまう」
周明氏がひらめいて、
周明「! いや、これは面白いかもしれないぞ。どうせ私の主張は法廷に載(ノ)らないのだ。戦いに負けて戦争に勝つ。・・・これは私の最後の檜舞台に成るかもしれない。殴り込みは熊本の五高以来だ」
堀田「殴り込みって大川先生はお幾つになられたんですか」
周明「還暦は過ぎたかな?」
堀田「そんな方が無理無理! 心不全で階段の昇り降りでヘタッテしまう。かえって足でまといです!」
周明「何を言うかッ! 私は剣道五段、真庭念流の使い手だぞ」
肥田「ほう。大川君は、真庭念流か。専守防衛の剣術だな。それじゃあ、ジックリと作戦を練らなければ」
西丸「おいおい。ここは精神病院ですよ。患者達に統制が取れる訳が無いじゃないですか。バカらしい」
周明「院長が言っていましたよ。ここの患者達に今一番必要としているのは夢と希望を持たせる事だとね」
西丸医師は説得するように、
西丸「大川さん、それは解釈が違う。たしかに泥棒にも一分の理があるかもしれない。が、丸の内のGHQ本部に殴り込みをかけるなどとは、それはちょっと頂けないなぞ。患者には刺激が強過ぎる」
肥田は西丸医師を睨(ニラ)む。
肥田「君は日本がこのままアメリカの意の儘(イノママ)に成り下がって良いとでも言うのか!」
西丸「いや、それとこれは違う。これじゃあ本当のヤルカ会談だ」
三人「は?・・・」
堀田「とにかく、僕がシナリオを書きましょう。どうですか?」
周明「面白い! 任せる。徹底的に面白い脚本を書いてくれ」
西丸「おいおい。付いて行けないぞ。オレはもう戻る。いいですか、これは、あくまでも小説ですからね。くれぐれも皆さんの『気持』は入れないで下さいよ」
つづく
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