04

 模擬戦用のフィールドで、魔法で構築された木々や岩、怪魔を模したロボットの破壊音が響く。


「足りねェ!! 足りねェッッ!!!」


 甲高く悪魔のような笑い声と共に、目の前の全てを破壊しながら進む赫田に、運悪く同じグループになってしまった同学年の生徒たちが逃げ惑う。

 対怪魔や対魔法士を想定した模擬戦では、それぞれスコアが決められており、ペアでのスコア、個人でのスコアを出し、教師たちの意見も交え、高魔大会の出場者を選考する。

 そのため、圧倒的な実力者には、当たりたくないというのが出場したい生徒たちの本音だ。


「いや、これはちょっと……」


 苅野が頬を引きつらせる程度には、赫田が圧倒的だった。

 実際、午前の測定の時点で、ある程度実力が拮抗するように設定されているのだが、そういう問題ではない。

 理性などないかのように槍を振るい、圧倒的な力で破壊していく。


「アレ、マジ人間か……?」

「すごいよね。ヒロ君」

「知り合い?」

「幼馴染。翌檜に転校するって言ったら、一緒に来てくれた」


 魔法使いとしての実力さえあれば翌檜学園は、わりと簡単に門を開く。

 目下で繰り広げられている光景を見れば、実力がある事などとてもよくわかる。


「Sランクの幼馴染……そりゃ、強いわけだ」


 きっと彼もまた特別入学なのだろう。

 1年生だから目立たなかっただけで。


「ちゃんと受験しに行ってたような気がするけど……」

「形だけでしょ? あんなバケモンみたいな奴なら、翌檜は大喜びでしょ。俺なんかじゃ……」

「?」


 苅野の言葉に違和感を感じた灯里は、じっと苅野を見つめる。

 既に模擬戦は赫田のペアである彩花以外は、ギブアップか倒されていた。


「あ、いや、その…………実は、さ、俺、奨学金なんだ。勉強じゃなくて、魔法士の推薦の方で」


 翌檜学園は、将来有望な魔法士を育てる目的もあるため、魔法使いとして優秀であることを証明できれば、比較的簡単に奨学金を受け取ることができる。

 苅野もまた魔法士としての奨学金を受け取っていた。そのため、高魔大会の出場は絶対条件であった。


「学年枠は取らないと……」

「取れるよ」

「簡単に言うなぁ……」


 魔法使いとしての才能が違い過ぎる灯里に、何を言ったところおそらく理解はされない。

 なにより、先程の件も含めて、灯里は今回の試合でもおそらく大きく動くことはしない。いくらその場にいる人間の認識を変えたところで、機械的に打ち出されるスコアを書き換えることはできない。

 そのズレは結果的に疑問を生み、全世界を騙すことができないならば、いつかは全て明るみに出る。

 だから、この模擬戦で苅野は、ほとんど一人で戦うことになる。


「まぁ、がんばるしかないよなぁ……」


 奨学金がもらえないということは、学費が払えないということだ。

 最初から全てが用意されている彼女とは違う。自分で勝ち取らなければいけない。


「一応、確認するけど、ルールはわかってる?」


 2年ということもあり、学年ごとに行われるルール説明はおざなりだ。

 とりあえず、非殺傷魔法のみ。支給された服が、危険と判断する以上の攻撃は行わない。危険と感じたら教師たちに合図を送る。フィールドの外へ出ればギブアップ扱い。

 それ以外は、どういった魔法を使用しても問題なく、武器も自由。という、最低限の説明だけだった。


「ペアの解消はできないけど、手を組むのはあり。基本的には、制限時間生き残ればいいんだけど……」


 先程の赫田のように、全てを破壊し尽くしたら、その場で模擬戦が終了する。


「非殺傷ってどのくらい?」

「それはマジで死ななければ。骨折るくらいなら、回復魔法士とか設備が整ってるから問題なし。出血とかは、攻撃した後に教師たちへ攻撃者が合図送れば、なんとかなる。こっちでバイタルも測定してるから、教師陣がすっとんでくる」


 普段の体操服と異なり、電極などが付いた服をフィールドに入る生徒たちが着ていた。

 これは、バイタルや魔力などを測定するボディースーツであり、実戦に近い形式での模擬戦のために安全性を担保する目的と、魔力の研究に使われている。

 そして、その上から来ているのは、魔力耐久性の高い布で作られた服だ。魔法士などが実際に使用しているもので、これも不慮の事故が発生しないために使用されている。


「魔法を使った模擬戦は結構あるけど、その中でもトップクラスに制限が緩いから、精神系もオッケーだし、ラフプレーも多いから、なんていうか、とりあえずマジで気を付けて」


 毎年、怪我人は多いが、そのための体勢は整っているため、病院まで運ばれる生徒は意外にも少ない。

 特に警戒が必要なのは、精神的な魔法を使える生徒だ。こればかりは、適性がないと後手に回る。下手すれば対処もできない可能性がある。


「……?」


 ふと、確実に精神魔法に適性のある彼女が目に入る。

 彼女とは、あくまでぼっち同士の授業だけの関係。自分のために、精神系魔法の警戒をしてほしいと言っていいものか。


「……いや、黒沼はどうすんの? 時間いっぱい逃げてればいいだろうけど、たぶん隠れてやり過ごすのは難しいし」


 赫田の事件は置いといて、基本的に能力値が同じくらいの相手と組まされる。教師たちも灯里Sランクを考慮して組ませているなら、相手は学年でもトップクラスになる。

 少なくとも隠れ続けるのは難しいし、そういう生徒たちは学内では有名だったりする。つまり、知られていない程度の顔であることに加えて、Sランクであることを隠していたことで、相手からすればポイント稼ぎの弱い相手。確実に狙われる。


「え、東京怖……」

「いや、絶対、向こうの方が怖いと思う」


 弱いと思って喧嘩を売った相手が、規格外Sランクとか絶対嫌だ。


「じゃあ、エサやるね」

「?」

「?」


 お互いに不思議な表情をしたまま首を傾げるのだった。

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