4話 模擬戦始めます

01

 ゴールデンウィーク。

 新学期が始まって一番最初に来る連休。祝日が集まっているだけという連休のおかげで、間に平日があるとすっかり休日ムードの学生は全くやる気が出ないため、授業にならないという魔の平日。

 結果的に学校側はそこにイベントを当てることで、不満が垂れまくる授業を回避する。

 翌檜学園では、それが魔力測定であった。


「はぁ……憂鬱だ……」


 新学期早々、2人1組で行われる魔力測定は、コミュニケーション能力のない生徒にとって、大難関と言っても過言ではない。

 最初から一緒に受けようと意気揚々と来る陽キャに、少しでもコミュニケーション能力があるなら、部活とかの知り合いに声をかけておく。

 残るのはそれすらできない陰キャのみ。

 最終的に、受付でペアがいないことを察した教師が、残っている生徒から適当に組ませるところまでがデフォルトだ。


 苅野は、受付から大分離れた場所で、時間が過ぎるのを待っていた。


「…………」


 会場が開けば、ペアを組んでいる生徒たちは会場に向かう。そこで残った生徒がペアを組めていない生徒だ。

 下手なタイミングで受付をして、まだペアを組んでないのかとクラスメイトや部活にバレた日には、合わない人種に放り込まれる危険がある。

 ここは陰キャ同族と組める可能性を少しでも上げるため、耐える。


「…………」

「…………」

「…………うぉおっ!?」


 誰もいないと思っていたはずの場所に、自分と同じように座っている女子生徒がいた。


「って、あ……アンタ、同じクラスの……」


 覚えのある顔だ。今年から同じクラスの、自分と同じように影が薄い女子生徒。

 おそらく絶対陽キャではないと、妙に暗い表情をしている彼女に声をかけてしまえば、彼女はゆっくりと顔を上げる。

 もしかしたら、彼女も自分と同じように仲間探しをしているのかもしれない。


「え、えーっと……2-A、でしたよね?」


 こくりと頷くと、またそっと視線を落とした。


「……なんか、ありました?」


 初対面でもわかる落ち込んでいる様子に、一応尋ねてみれば、視線は落としたまま呟かれた言葉。


「友達と喧嘩した」


 あーそういうこと。


 つい口から漏れそうになった言葉を飲み込む。

 要は、ペアを約束していた友達と喧嘩して、その友達はさっさと別の友達と新しくペアを組んでしまったと。

 ハブられてしまった彼女は、ひとり陰キャに混じることになったと。


「そりゃ、大変っすね」


 色々とオブラートにくるんだ言葉をひねり出せば、そっと視線がこちらを捕らえる。


「私が変だからいけないんだよね……」


 ちらりと時計を見るが、まだ受付終了までは時間がある。


「いやいや、そんなことないって」


 テキトーに相槌を打ちながら、どうやって逃げるかと頭をフル回転させる。

 タイミングを見て、時間だからと切り上げる。これが一番当たり障りないはずだ。


「……」


 しかし、予想に反して彼女の会話はそれで終わった。

 てっきりこの後、どんなことがあったとかが続くかと思っていたが、続かないらしい。

 このまま相談される流れかと思った自分が恥ずかしくなってくる。


「……」


 だが、相談もしないのに、近くに座ったままという上に、微妙に会話してしまった。加えて、クラスメイトだという気まずさ。

 そもそも、こちらから聞いてしまったが故に、これはもう自分から会話をする流れになってしまっている。


「……な、何があったかは知らないけど、たぶん、相手も気にしてないって」


 気まずさに負けて口にしてしまった言葉の無責任さに、すぐに後悔が走ってくる。


「ほら、冷静になったら大したことないことだって思うことも多いし」

「二度と使われないライブグッズ的な?」

「グッズと喧嘩を一緒にするのはどうかと思うけど、まぁ、似たようなもん、すかね?」


 まだ納得していなさそうな表情だが、そっと時計を見ればそろそろ良さそうな時間だ。


「気になるなら、一回謝るだけ謝ったら、楽になるかもしれないっすよ」


 いい感じに切り上げる会話に持っていき、受付に向かおうとすれば、向こうから走ってくる人影。

 有名人の多い翌檜学園の中でも、特に有名なアイドルだ。

 つまり、自分にとって、一番関りがない相手。


「灯里! こんなところにいた!」

「彩花ちゃん?」


 どうやら探し人は、彼女のようだ。

 結果的に話し相手になってしまっていた自分に、幸延の不思議そうな視線が向けられる。

 気まずくて話してしまった相手は、陽キャ中の陽キャの仲間だったらしい。巻き込まれる前に逃げよう。マジで。


「お、怒ってたんじゃないの?」


 しかも、喧嘩相手というのは、幸延のことらしい。


「怒ってる? 私が? なんで……」


 無自覚な喧嘩か。つまり、誤解ってことだろう。

 もう関係なさそうだと、フェードアウトしていこうと、足音を立てないようにそっと後退る。


「あれから、あんまり話さないから……」

「あ゛、れ、は……!! あーもう! とりあえず、怒ってないし! 灯里、受付行ってないでしょ!? ペアも決めてないし!」

「ペア?」

「魔力測定はペアを組んで参加だよ? って、そっか……2年だから、その辺の説明なかったのか……」


 ふたりを置いて、受付に辿り着けば、担任が受付に立っていた。

 ぼっちのための組み分けが、すでに行われているらしい。


「あぁ、ちょうどいい。苅野。お前、ペアの約束してる奴いるか?」

「いないっす」

「なら、黒沼と組んでくれ」

「わかりました」


 無事ペアを組んでもらえたと安心していたのも束の間。

 現れたのは、先程の女子生徒だった。

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